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はじめに

農業体験・田んぼフィールドを授業に

福田 恵一

 東京の郊外、玉川上水の取水堰で有名な羽村市の中学校で、周辺の農家での体験や、田んぼへのフィールドワークを通し、農業に対する理解を高めようとした取り組み事例を紹介します。

 東京都羽村市は、新宿から青梅線で約1時間、人口6万弱の小さな町です。まだまだ田んぼや畑、雑木林なども残る一方、新しいバイパス沿いには、郊外型のスーパーやコンビニ、ファミリーレストランなどが進出している典型的な郊外都市です。

 私はその羽村市で、社会科教諭として羽村二中に1989(平成元)年から10年、羽村一中に6年勤務し、田んぼや農家を訪ねる体験型学習・フィールドワークなどに取り組んできました(羽村市の中学校は一中から三中までの3校)。

1.職場訪問・体験には地域の農家も

受入れ農家が市内12軒に

 羽村二中では1990(平成2)年から、いわゆる「職場訪問・体験」が始まりました。

 スタート当時、訪問先はすべて教員が開拓したため、ちょっと大変でした。しかし、羽村市やその周辺はまだまだ農地の残る近郊地域だったこともあり、職業(仕事)の一つとして地域の農家訪問が、当初から組み入れられてきました。それは、生徒の保護者であったり、担当教員の個人的なつながりなどからのスタートでした。

 この時期は小学校などでも体験学習として地域の農家訪問などが始まった時期でもあるため、そうした経験のある農家などが受け入れてくれたこともあって、以来比較的スムーズに訪問先が決まりました。また、青梅・あきる野地区には、酪農や養豚を行なっている農家もあり、バリエーションを増やす意味もあって、そうした農家訪問を取り入れた年もありました。

 土にふれることや、まして牛・豚となると、当初子どもたちのなかには「エーッ」という声があがることもありました。しかし、実際に訪問し体験をすると、人気のある販売業など以上に楽しんで帰ってくる子どもたちがたくさんいました。

 羽村一中でも職場訪問・体験は、羽村二中のやり方を踏襲したので、当初から農家訪問・農業体験を含むかたちで1999(平成10)年にスタートしました。その後も現在に至るまで、年によってやや違いはあるものの、おおよそ各クラス1班(グループ)が、近郊の農家で訪問・体験を行なっています。

 羽村一中では、2004〜5(平成16〜17)年度とも訪問した農家は市内の6軒で、やはり各クラス1グループずつになっています。農業のほかには幼稚園・保育園が各クラス2グループ、介護体験1、製造業2、商店・スーパー2〜3、その他新聞社・図書館・自動車整備など2、となっており、ここ数年は2〜6人の少人数のグループで訪問しています。

 今年度、野菜生産農家を訪ねたグループは、ニンジン・ネギの収穫やダイコン洗い、別の農家でキャベツ・ハクサイの収穫、ポット植えの花を生産する園芸農家では花とりや花ならべなどを体験し、いずれも市の直売場にも出荷している農家なので、その様子も見学しています。

 キャベツやハクサイの収穫を見学・体験した男子は「当日やっているうちに楽しくなっていて、あっという間に時間になっていた」、ダイコンの収穫・サトイモの皮むきを体験した男子も「野菜を取るのがとても楽しかった」と感想を書いています。

 こうした蓄積をいかし、2005年度では、羽村三中が東京都のモデルケースとして5日間の職場体験を実施するなど、市内12軒の農家が子どもたちを受け入れています。このうちの2軒の農家から少し感想をうかがいました。

園芸農家の中島さん

施設で花卉園芸を営む中島さん

 中島さんは、羽村一中のすぐ近くで、加温ハウスでの花卉園芸を営む専業農家です。ポットに入れて出荷する花壇苗のサルビア・マリーゴールドや鉢植え、一部切花などを周年出荷しています。

 一中との関係から5年ほど前から毎年職場訪問・体験を受け入れ、昨年11月には、春先出荷のパンジー苗の植えかえ(鉢上げ)の作業をしました。子どもたちは、いつも最初は緊張しているようだが、土をいじりだすと楽しくなって、どんどん作業をやってくれる、と言います。

 職場体験といっても、東京で実際に農業に就業するのは難しいので、将来「農業の応援団」になってくれればと、農の大切さ、自然との共生などに重点をおいた話を子どもたちにされています。

野菜農家の中野さん

直売型の野菜生産を行なう中野さん

 中野さんはやはり羽村一中の学区に住み、1haの農地で、直売型(一部生協出荷)の野菜生産をする専業農家です。夏のトマト・キュウリから、秋野菜、葉物野菜など年間約40種類を生産しています。

 中野さんも教員との個人的な関係で10年ほど前から二中、一中の子どもたちを受け入れ、昨年度は三中の生徒を5日間も受け入れました。

 当初は、受け入れる側も子どもたちを「お客さん」扱いしていたけれど、今はボランティアだと思ってどんどん仕事してもらっています。でも、その方が子どもたちも楽しんでいる、とのこと。これは、学校で見せる子どもたちのようすをうらうちするものでした。

 「羽村に住んでいても子どもたちは作物について、農業について何も知りません。農家はただ作物をつくって出荷するだけ、と思っています。そういう子どもたちになるべくいろんな話をして、今の農家が種や資材の選び方、出荷や販売方法までするんだ、という「職業」としての農業を理解してもらいたい。だから必ず直売場にも連れて行って値札つけなどもやってもらいます」。ただ中野さんも子どもたちが将来すぐに農業に参画する、とは考えていません。ここでの体験が、農を知り、さらに「食」や食料自給率の問題を考えるきっかけになってほしい、と話してくれました。

 このように、都市近郊でも、農地・農家のある地域ならば、こうしたかたちの訪問・体験は可能であり、その後の発表会・ポスターセッションなどのバリエーションを増やすことができるとともに、それが「農」や「食」また「環境問題」などを考えるきっかけにもなりうると思います。


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