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(1) 子どもたちの「生きる力」をはぐくむには大人が変わらなければならない
(2) 農の持つ教育力―農村地域とともに開く学びの場
出典 『21世紀の日本を考える』2003年 2月号
執筆 埼玉県立総合教育センター・農業教育センター所長 蕪木 豊

1 埼玉県下9割の小学校が食農教育を実施

 昨年8月、私ども埼玉県立総合教育センター(平成12年に設立)主催の「食と農の指導」に関するフォーラムの講師として来られた文部科学省の嶋野道弘視学官が、「こんなに食農教育をやっている県はありませんね」と言っておられましたが、実際、総合教育センターは、設立以降、食農教育に懸命に取り組んできました。そして昨年頃から、小中学校の先生方のあいだで「食農教育」という言葉がごく当たり前に交わされるようになってきています。
 私は、農業教育センターの所長も兼務していますが、その農業教育センターにおける昨年度の調査研究の一環として、埼玉県下の公立小中学校で、どれくらい食農教育をやっているのか、アンケート調査を行なったところ、小学校では約9割の学校でバケツ稲作や草花の栽培も含めて、なんらかの食農教育(農業体験学習)をやっていました。
 県内に公立の小中学校は全部で1254校ありますが、そのうち小学校では805校、中学校では411校、合計1216校からアンケートの回答が寄せられました。回答率は小学校で96,8%、中学校で97,4%です。そして、農業体験学習(食農教育)を実施している学校は、小学校では88%、中学校では37%でした。

2 いま、なぜ食農教育なのか

 昨年4月から、小中学校における新学習指導要領が全面実施されていますが、新しい学習指導要領は、基礎・基本の確実な定着や、みずから学びみずから考える力など「生きる力」の育成を目指しています。私は「生きる力」のいちばんの根本は食べること、そしてそのことにより健康なからだをつくり、豊かな心をはぐくむことが基本だと思っています。
 さらに食のもとになる、米や野菜、肉などがどのようにしてつくられてきたのか、もう一度原点に立って学習する必要があると思います。とくに食と農の乖離が進行するなかで、みずからの生命を維持するための食が、他の動植物の生命をいただくことで成り立っていることを知ることは、子どもたちが豊かな心をはぐくむうえで大変重要なことだと思っています。「生きる力」とは、まさに心とからだのスタミナをつけること、人間としての地力をつけることだと考えています。
 農業教育センターには、県内8校の農業関係高校の2年生(総合学科については1年生)の生徒全員が2泊3日で宿泊研修に来るのですが、一昨年から長野県の伊那小学校の子どもたちが豚を飼育しているビデオ(「生命を学ぶいきいき農業体験」制作全農映・発売農文協)を見せています。見終わると生徒たちは、「オレ泣けちゃったよ」などとみんな感動しています。伊那小の子どもたちは、出産に立ち会い、自分たちが育てた豚を手放すとき、豚が家畜であり、自分たちが家畜に生命をいただいていることに気づきます。そのピュアな心が農業高校生の心をもとらえるのです。
 農業のもつ教育力の大きな特徴は、生きものを育てるという過程にじかに触れることを通じて、いろいろな体験をし、発見や驚き、喜び、悲しみなどさまざまなことを感じることです。それによって、知の前提となる直感力とか、体験的認識力を身につけることができます。こうして身についたものが、まさに「生きる力」のもととなるのです。
 また、作物栽培や家畜飼育などの農業体験を行ない、子どもたちが生きものや農村の自然、農村生活に触れることによって、感性や生命・自然界の不思議さなどに対する知的好奇心をはぐくむことができます。これらの農業・自然体験は、理科離れ対策としても大いに期待がもてます。自然の不思議さ、その発見が理科の興味につながるのです。

3 先生は指導技術とともに感性をみがく必要がある

 こうした食農教育等の取組みに対し、子どもたちの学力が低下してきていると言って、学力問題に焦点を当て、国語・算数等教科の指導方法の改善・充実を図るべきだとの議論があります。教科学習を充実させるのは学校としては当然のことですが、いまむしろ大切なことは、子どもたちに食農教育等によって感性をみがき、自然の不可思議さの発見などから勉強に興味をもつようにさせることで、長い目で見れば、それが学力の向上につながるはずだと思っています。
 子どもたちに感性を身につけさせることが大切ですが、そのためには先生方が指導技術とともに豊かな感性をもっていなければ、そうした方向に指導することはできません。そこを理解していただき、先生方はみずからをみがいていただきたい。そのために、教育センターでは先生方の食農研修会をはじめ子どもたちの感性をはぐくむ指導技術を身につける研修会に力をいれています。
 子どもたちに生命の大切さや、人間は他の生きものの生命をいただいているということを体感させ、人としての思いやりやものごとに感謝する気持ちをはぐくむ。そこまで子どもたちに教えてくれる指導力をもった先生になっていただくために、教育センターはさらに先生方をサポートしていかなければいけないと思っています。
 
写真 心とからだをつくる食農教育研修会
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