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(6) 生活文化の語り部・農村の高齢者
(7) 教育にとっての家畜の活用
出典 『農業教育』63号 2001年 12月号

1 村の生活文化の語り部「ルーラルガイド」

 山口県は三方に海が開け、中国山地につながる内陸部や温暖な瀬戸内に広がる平野、対馬暖流の恵みを受ける北浦など、豊かな自然から豊富な食べ物が生産されています。そこには、風土を背景に、旬の食材を上手に使った先人の知恵や技が日常の生活に生かされ、特色ある農山漁村の暮らしが営まれてきました。
 その特色ある農山漁村の暮らしを背景に、山口県では朝市が盛んで、300ヵ所あまりで開催されています。また、この朝市を国道沿いのルートでつなぎ、日にちを決めてそのルートの朝市を一斉開催するイベント「ルーラルフェスタ」も、平成7年から開始され、人気を呼んでいます。
 ルーラルフェスタで朝市を広域に結ぶと、それぞれの朝市の違い、地域の違いが改めて見えてきます。朝市の根底にあるのは、人間が長い時をかけて地域の自然に働きかけ続けた結果生まれた、地域自然と人間が一体化したそれぞれの地域に固有の生活文化なのです。その自前の生活文化が、朝市のそれぞれに独自の魅力を生み出しています。
 山口県には、第1次産業に従事する9つの女性組織の長によって構成されている山口県農山漁村女性連携会議があります。ルーラルフェスタを始めたのは、この農山漁村女性連携会議でした。平成12年4月、農山漁村女性連携会議は、新たにルーラルウェルカムセンターを立ち上げました。
 ルーラルフェスタの開催によって、風土のなかで長い時をかけて、毎日、毎日磨いてきた暮らしの技と知恵、経験をもつ人たちが県内にたくさんいることがわかりました。ルーラルウェルカムセンターは、この人たちを「ルーラルガイド」として登録し始めています。県内の農山漁村のさまざまな食材や地域に伝わる郷土料理、食文化などを、都市の生活者や子どもたちに紹介してもらおうというのです。現在では440名のルーラルガイドが登録されています。一方で、ルーラルガイドの情報を求める人たちを「ルーラル体験隊」として登録し、「健康で豊かな食生活実践」に取り組んでもらうために、両者の積極的な交流を進めています。

2 高齢者の知恵と技を発信する朝市

 そんなルーラルガイドの1人、昭和5年生まれのキクちゃんは錦町に住んでいます。錦町は、山口県の北部、島根県と広島県の県境にあって、林野率92%、1000m級の山が7つもあり、山に囲まれた、人口4540人、高齢化率42,2%の過疎高齢化の町です。
 キクちゃんたちが朝市に取り組んだのは昭和52年。まだ県内でも朝市がめずらしい頃で、県下でも2番目でした。「にしき金曜広場朝市」と名付けられたこの朝市は、現在も繁盛しています。
 錦町内にもだんだん朝市が増え、町内に16ある朝市によって、錦町ふれあい朝市協議会ができました。平成10年には「道の駅ビアラインにしき」が錦町に開設されましたが、この道の駅の顔となっているのが、錦町ふれあい朝市協議会が毎週日曜日に道の駅の前で開催する朝市です。
 町内の16の朝市に参加している農家はほとんどが高齢者で、朝市には高齢者の技がいっぱいです。たとえば「広瀬大根市」という朝市がありますが、名前の通り、自慢は大根と「かんぴょう」(干し大根)です。
 かんぴょうづくりは、けっこう手がかかります。まず大根を千切りにして蒸します。それから寒風にさらし、毎日よく揉み込みます。1週間ほどくり返し揉み込んでいると、甘い香りがしてくるのです。長年の経験から、白く柔らかで香りのよいかんぴょうに仕上げられています。「あのかんぴょうが美味しかった」と、ふるさとの母の味を求めてまた訪ねてくる人もあるくらいです。
 キクちゃんたちも、自分が所属する生活改善グループで農産加工所を発足させ、保健所の営業許可を取り、ヤホー漬け、梅干し、こんにゃく、辛づくし、わさび漬け、しば漬け、「キクちゃんみそ」等々の加工品を生み出し、朝市や道の駅で売って好評を博しています。とくに「キクちゃんみそ」は、自分たちで栽培したダイズを使ったこだわり味噌で、その味は輸入ダイズを使った味噌とは比べものになりません。
 このように朝市に並んでいるのは、地域に根付いた資源と、暮らしのなかの工夫から生まれた個性豊かな農産物、林産物、加工品です。
 「あの沢のワサビが一番いい」「このゼンマイはこういう具合に干し、こう手を加えたらおいしく食べられる」という具合に、地域の自然を知り尽くしている高齢者が長年培ってきた技と経験が朝市では輝きを発し、地域の食を中心に生活文化を発信しています。
 朝市の高齢者は、「作るのが楽しい」「訪ねてくれ、声をかけてくれる消費者とのふれあいが楽しい」「若い人たちに加工技術を伝えたい」といいます。高齢者の知恵・技・経験が、朝市では消費者にも伝えられるのです。消費者との間に笑顔の交流が広がり、山間地に新しい息吹が生まれています。
 
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