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(1) 農山村フィールドワーク体験による農業・環境学習
(2) 触覚に注目したブルーベリーの目隠し収穫体験プログラム
(3) 食農教育から生まれる教育的効果に関する
(4) 地場産学校給食を入り口に幼稚園も小学校も積極的に食農教育
(5) 連携してここまで高めた小学校の「総合的な学習」と農高の教育力
(6) 生活文化の語り部・農村の高齢者
(7) 教育にとっての家畜の活用
出典 『農業学習の教育効果に関する総合的研究』
執筆 山岸 主門(島根大学生物資源科学部)
小浦 誠吾(南九州大学園芸学部)
協力 日本農業教育学会

1 触覚に注目した理由

 「自ら行動する、自ら学ぶ、自ら考える」力をつけることに重点を置く体験学習では、人間が持って生まれた五感を刺激し、その五感をフルに使って直接体験させることを意識した取り組みが多い。五感から得られるさまざまな情報を識別する能力を高めるプロセスの導入は、感性に働きかける農業教育では重要な意味をもつものと考えられる。
 農業体験学習において五感に注目した事例は見受けられる。しかし、それらは植物や土などを目で見て、指で触る行為などを通じて、その素材が自然物であるという理由のみで「きっと五感で感じ取りやすいはずだ」という推測のもと、漠然と大雑把に五感をとらえている場合が多いようである。すなわち、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のうち、ある特定の感覚だけに着目して、それを積極的に引き出すためにプログラムに工夫を施した事例は非常に少ない。
 人間の場合、五感のなかでは圧倒的な情報量という意味で視覚の占める役割が大きい。逆に言えば、視覚からの情報があることによって、他の4つの感覚を十分に生かしきれていないケースが多いものと思われる。したがって、視覚情報を意図的にシャットアウトした疑似体験を行うことで、他の感覚への意識が相対的に高まるものと予想される。
 ここで紹介するブルーベリーの収穫体験は、擬似的に視覚からの情報を制限し、触覚に依存した状態で行うプログラムである。とくに五感のなかで触角に焦点を当てた理由として二つ挙げられる。
 まず一つ目は、ブルーベリー果実の場合、触覚によって未熟果と適熟果の判別が十分可能であるという点である。通常、果実の成熟程度の把握は、果皮色を目で判断することによって行われる。成熟にともなう過程でのこの果皮色の変化のほかに、未熟果に比べて適熟果は、その大きさが大きく、また果皮がやわらかくなるという特徴が認められる。この果実の物理的・形態的変化は触覚によって判別することができることを、過去に盲学校の生徒がブルーベリーの収穫体験を実際に行ったなかで確認し、この目隠し状態で収穫する体験プログラムを着想した。
 触角に注目した二つ目の理由は、触覚が他の四感と比べて軽視されがちな特徴をもっている点である。進藤(文献2)は、五感の力が理性や感性を超えて生活の中で重要な役割を担っていると考え、五感にすぐれた人々の実態を明らかにするためのアンケート調査などを行った。五つの感覚それぞれについて、その鋭さ・敏感さをどのように認識しているか質問したところ、「自分は触覚が鋭いほうだ」と回答した人が7%弱と低かったのに対して、他の四感はいずれも触覚の倍以上の15%以上であった。また、この鋭さについて、五感それぞれの関係を分析したところ、とくに触覚が他の四感と相関が非常に高かった。さらに、「五感のなかで最も失いたくないものはどれか」という問いかけに対して、8割以上の人が視覚を選び、触角は嗅覚と並んで2%弱の低い選択率であった。
 以上のことから、触覚は、その意識や重要度が低く、また触覚が鋭い人はすべての五感が鋭い人に多いと考えられる。したがって、触覚を積極的に利用したプログラムを体験することは、触覚はもちろんのこと、五感全体を再認識する機会となるのではないかと考えた。
 本報告はまず、目隠し収穫体験と関連したブルーベリーのもつ特徴を理解することにより、収穫作業がこの疑似体験の教材として適していることを説明し、次に、通常の収穫と目隠しした状態での収穫とを比較した調査結果について記し、さらに目隠し収穫を取り入れた体験学習の事例を紹介し、この触覚に注目した体験プログラムの意義について検討した。

2 目隠し収穫体験に適しているブルーベリーの特徴

 「目隠し」という擬似的体験を行うための教材として、数多くの作物・作業の中から、ブルーベリーの収穫作業を取り上げた理由を説明するため、第1表にブルーベリーのもつ特徴などを7つ列記した。
第1表 目隠し収穫体験に適していると思われるブルーベリーのもつ特徴とその利点
特徴 利点
1)長い収穫期間 体験を長期に組める
2)生食が可能 その場で成熟度を確認できる
3)枝葉をかき分け果実を探す収穫 見つけ出す楽しみがある
4)成熟した果実の選択収穫 やりがいや達成感がある
5)数多くの小さい果実 ミスしても精神的なダメージが少ない
6)広範囲の着果 老若男女すべてが果実に届く
7)摘み取り時の細やかな指の動き 触覚への刺激が大きい
1) 長い収穫期間:ブルーベリーは一般的な果樹のなかでも「長い収穫期間」をもち、一品種でも1〜2ヶ月程度、品種を組み合わせると3ヶ月以上にわたり収穫が可能である。
2) 生食が可能:ジャムなどの加工品でしかブルーベリーに接したことのない人が多く、収穫体験では「生食可能」であることに驚きを覚える。さらに果皮も種子も丸ごと全部を生食できることも特徴であり、その場で簡単に成熟度を味覚によって確認することができる。
3) 枝葉をかき分け果実を探す収穫:収穫時期には葉が繁茂し、また樹冠内部にも着果しているため、「枝葉をかき分けて果実を探す収穫」となる。その結果、手探りで見つけ出すというゲーム性をもっている。
4) 成熟した果実の選択収穫:一般的な果樹は、一斉収穫、または短期間に数回の収穫を行うことが多いのに対して、ブルーベリーは同じ樹の同じ房の中でも熟期が数週間異なるため、成熟果の「選択収穫」となる。したがって、目隠し状態でも成熟程度を確認しながら行う収穫は、すべての果実を手当たりしだい摘み取ることになる一斉収穫時には得られないであろう、選び取るという、やりがいや達成感がある。
5) 数多くの小さい果実:ブルーベリーは1〜3g程度の小さな果実をたくさん着生させる。この「数多くの小さい果実」という特徴は、誤って数個の未熟果をとったり、成熟果を潰してしまったりしたとしても、収穫体験者および栽培管理者に精神的ダメージが少ない。さらに収穫最盛期には、1回の収穫で成木1樹当たり1000果実以上の収穫が見込まれるため、足を動かすことなく、手の移動だけで数分間の収穫が可能であり、目隠し状態でも安心して収穫することができる。
6) 広範囲の着果:ブッシュ状に茂るブルーベリーは、地表面近くから2m程度の高さまで「広範囲に着果」する。したがって、歩き始めの子どもや車椅子のお年寄りを含めて、すべての者が踏み台や脚立を使うことなく、楽な姿勢で果実に手が届くことになる。
7) 摘み取り時の細かな指の動き:果房内で成熟程度が異なるため、収穫時には、未熟果や枝葉の中から成熟果一つ一つを両手の指を使って選り分ける必要がある。この「摘み取り時の細やかな指の動き」は、指先の触覚を大いに刺激し、また指先の不自由な人にとっては、適度なリハビリとしても活用できるものと思われる。
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