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(1) 栽培方法を科学的に考えさせる栽培マル秘作戦の実践
(2) 栽培体験の教育的効果に関する
(3) 地域の教育力を取り入れた栽培学習
出典 『農業学習の教育効果に関する総合的研究』
執筆 林 瑞紀(福井大学教育学部生 現 福井県敦賀市立松原小学校)
溝端良庸(福井大学教育学部生 現 大阪府松原市立松原中学校)
木下孝治(福井県宮崎村立宮崎中学校 現 福井県宮崎村教育委員会)
奥野信一(福井大学教育地域科学部)
協力 日本農業教育学会

1.はじめに

 近年、学校や児童・生徒を取り巻く状況が急激に変化する中で、「開かれた学校づくり」という文言に代表的に示されるように、学校、家庭、社会の三者の有機的な関係強化が求められるようになってきた。このような教育を取り巻く各方面からの声の反映と必要性から、現行の学習指導要項においても、「開かれた学校づくりを進めるため、地域や学校の実態に応じ、家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること」(註1)が指摘されている。また、「実践的・体験的な学習」が一層重視され、家庭や地域との連携をはじめ、創意工夫を生かした特色ある教育、学校創りがますます求められている。
 本稿では、中学校技術・家庭科(いわゆる技術分野であり、以下技術科という)における、地域の教育力を取り入れ地域に開かれた栽培学習の実践について述べる。

2.地域の教育力と栽培学習

(1)学社連携・融合論と栽培学習

 さて、このように学校教育と家庭・地域社会との協力関係が最も進んだ形態として、「学社融合」という概念がある。国の生涯学習審議会はこの「学社融合」について、「学校教育と社会教育がそれぞれの役割分担を前提とした上で、そこから一歩進んで、それぞれの要素が部分的に重なり合いながら、一体となって青少年の教育に取り組んでいこうという考え方であり、学社連携の最も進んだ形態と見ることができる。」(註2)と規定している。
 もともと学社連携は、「学校で学んだ原理的な事柄を社会教育の場で実践し、また、社会教育で体験した実践的な事柄を学校教育を通じて更に体系的に深める」と性格づけられていた。しかしながら、学社連携は観念的な補完論であり、実効があがらなかったといわれる。すなわち、体験を重視する社会教育がその特色で学校教育の抽象化がもたらす穴を補完しようとしたが、逆に学校の独自路線に引きずられて体験重視の個性を見失い、従属的な補助者になってしまった。学校教育のみが学社連携の成果を独り占めし、両者の互恵、互酬とはいかなかったのである(註3)。また、連携の形態では借りるのはよいが貸すのは自分の資源が、一時的になくなるから不安だ、いざというときに支障をきたす、多忙になるなどの問題が生じ、思うような関係づくりが成立しなかったのである。
 そこで考え出されたのが「学社融合」という学社連携から、一歩進んだ考え方である。学社融合とは、教育の効率をより向上させ、教育の成果をより高めるために、目標が共通する教育活動を学校教育、社会教育、家庭教育の立場を超えて三者が同一の事業として実施する営みであり、未来を担う子ども達を核にして手を携え、共に学びあう環境を創造しようというものである(図1)。国内における学社融合の実践は徐々に広がりつつあり、地域社会と共にその意味を共有しながら実践している学校も増えつつある。
 そこで、数ある教育的価値のある活動の中で「栽培学習」を諸活動の核として位置づけたい。なぜなら、栽培関連学習はその地域の風土や気候に左右され、それ故過去とのつながり、歴史的連続性が求められる。また、指導者には豊かな経験と共に、郷土に対する深い共感的理解が要求される。子ども達にとっても、地元の農業を体験することは地域社会に対する理解と共に、郷土に対する理解と愛養の第一歩ともなると考えられる。栽培学習を核として、学校教育、家庭教育、社会教育の三者を有機的に融合することは、ややもすると一貫性に欠けたり機能していなかったりする地域の教育力を、互いに活性化させたり目覚めさせたりすることにつながると考えられる。  
図1 「学社融合の概念」

(2)地域の教育力

 ところで、現在地域といっても非常に複雑化しており、その範囲は極めて曖昧なものとなっている。社会学では地域社会を、一定の社会的特徴を有した空間的連続性に求めており、地理学では、ある地域の土地の性質と他の地域のそれとの構成要素の差異で線引きしようとする。食物栽培の場合、気候風土は重要な要素であり、地理学的な地域区分も可能であるが、栽培学習にとっての地域となれば、児童・生徒の通学範囲である小学校区あるいは中学校区を想定したい。自然条件のみならず、歴史的条件や生産者、生活者としての関わり合いが、我々が規定する地域にとって必要不可欠と考えられ、森山・町田は、地域の教育力を、「地域社会に存在する人、物、自然等の教育資源の総称」(註5)とし、以下のものを挙げており、本稿でもこの規定を参考にしたい。

・地域人材…さまざまな分野で活動する専門家や地域文化の継承者など
・地域施設…博物館、図書館や工場、商店街などの文化・産業施設など
・地域素材…地場産業や地域に根づいた文化、自然、作物、伝続工芸など

 ここで、学社融合の概念図(図1)を栽培学習を核として表現すると、図2のようになる。図2において、中心部には融合の核となる栽培学習の意義が明確に置かれ、学校、家庭及び社会の三者は、教育的意義を共通理解することによって、自身の持つ教育カから意義に見合った教育的事業(活動内容)を選択できる。次に、選択した教育的事業が「融合すべきもの」か、「独自に学習すべきもの」かを判断する。この判断は、現在のところ教師が行っている場合が多いが、本来は学社融合コーディネーター(学校と各教育資源の橋渡し役)がすべきことである。ここで融合する方が教育的価値が高まると判断されれば、共通教育的事業となる。継続的活動の中で、活動意義や事業の精選・変更等の軌道修正が、二者あるいは三者の話し合いによってなされることは言うまでもない。
 このような望ましい形に近い実践として、福井県宮崎村立宮崎中学校技術科の栽培学習を紹介する、
図2 栽培学習を核とした学社融合の関連図
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