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(1) 小さな農業者の感性が発信する 花倉山からのメッセージ
(2) 幼稚園での植物栽培活動とその意義
執筆 澤口 道(静岡県焼津市・風の子の家)
 風の子の家は20名足らずの小さな保育所です。保育のカリキュラムの核として農業体験を取り入れており、自分たちで育てた食べものを食卓に乗せる生活体験を重視し、その食べものを五感で味わい、本物の味を知ることを大切にしています。こうした体験を通じて食への関心が高まり、生命の営みや科学の目も育っていきます。こうした原体験は幼児期こそ大切ですが、現状を見る限りでは子供たちから生活体験の場が奪われています。風の子の家では、人格形成の源である五感を大切にする環境を子どもたちに提供することを目標にしており、このような環境を社会的に整備することの必要性を、小さな保育園の実践を通じてアピールしていきたいと思っています。

1 一年通じた農業体験で育った子供たちの感性

 高い山と高い山の間に囲まれ、すり鉢の底にある小高い山・花倉山。ここが子供たちの遊び場であり、小さなお百姓さんになって農業体験を行い、生きものと接し、食べものを生産する場です。ここは農業体験を行う中で子供たちが様々なメッセージを発信する基地にもなっています。
○春の季節 3月〜5月
 タケノコが土の中からまだ顔を出すか出さないかの三月初旬、早くも子供たちはタケノコ探しを始めます。手を後ろに組んで前かが身になりながら、静かに土をなでるように足を横に滑らしていきます。足の裏に全神経を集中し、足の裏の微妙な感覚を頼りにタケノコのとんがり頭の出っ張りを捜し出そうと必死です。このタケノコ探し、見つけたときの感動はたまりません。手の平に乗るようなかわいいタケノコでも大事に掘りとり、最後には自分が抱えきれないほどになるまで、掘ったり担いだりと、タケノコと体いっぱいに格闘しながら、その旬の味もさることながら、まさにタケノコの存在そのものを身体全体を通して存分に味わいます。
 暖かくなって春の伊吹を感じるようになると、子供たちの感性もゆったりとしてきて、風や雲の流れにも関心が向いてきてきます。小鳥たちの動きに心を動かし、花倉山の自然の恵みを何気なく見つけては楽しむ。蕨、ふき、ゼンマイ、三つ葉、菜の花と、身近に生えている山野草が皆子供たちの口に入ります。園の給食の中には出来るだけこうした自然の幸を取り入れ、野菜ではあまり味わうことの出来ない苦味や甘味、酸っぱ味やえご味を味あわせます。しかし、これらの食材は一つ一つがとっても個性豊かだけに、手間かけて調理してしまうと食感も味も変わってしまい、せっかくの味の個性を楽しむことが出来ませんので簡単に行います。子供たちは自分の味の好みも考えながら山菜取りに励み、採集から食に至る体験を通じて、山の幸を味わうことが子供たちの生活の一部になって行きます。
 椎茸も春のめぐみとして子供たちの大好物。山で取れるホダ木の椎茸を子供たちはお母さんにおみやげとして持ち帰ります。「味噌汁に入れるといいよっておかあちゃんに教えてやるんだ」「森の匂いがする椎茸のほうがうまいもんね」「おかあちゃんのはスーパーで買ってきたのだから森の匂いがしないね」と、子供の鋭い嗅覚でその違いまで指摘してくれます。椎茸の育った環境を知り尽くし、収穫から食卓までの過程を五感を使って体験しながら、食べものの味覚だけでなく、臭いや食感までもしっかり捕える豊かな感性が育ってくれていることに本当に驚かされます。
 花倉山の春は、タケノコや山菜のフルコースの給食メニューに加え、お茶も自分たちで作ります。新芽を摘んでホットプレートで乾燥し、お茶に仕立て味わうことにも皆でチャレンジ。一服のお茶の渋みを味わい、まさに山の幸丸かじりの保育園生活です。
 
写真1 菜の花摘み
○夏の季節 6月〜8月
 夏野菜の種蒔きも終わり、子供たちも活発に山を駆けずり回り、元気いっぱい。子供たちは疲れるということを知らないかのようです。自然の中での体験を何度も行なうようになって一番驚くことは、以前は「疲れた、疲れた」と子供たちがすぐに言い出すのに疑問を持っていましたが、いつの間にか子供たちの口から聞かれなくなっていたことです。子供たちは所狭しと山を駆け回り、高く伸びたタケノコから竹水(2〜3mほどに伸びたタケノコの穂先を切ることで、節と節の間に溜まる水のこと)を取って味わったり、竹でコップを作って食事したり、作業をリードするお年寄りと一緒になって作業を手伝い、汗を流します。一年を通じてお年寄りとの交流を続けながら、タケノコの段階から竹の成長を見つめていきます。切った竹はお年寄りの手で竹炭に焼かれたり、ごかき、花器、皿、貯金箱などに作り変えられて行きますが、その過程をそばで見つめながら、物を作り出し、道具を使うことへの興味も広がります。
 夏の季節は小動物に一番触れることのできる時期でもあります。カブトムシやクワガタ、トカゲ、ナナフシなど、あらゆる虫たちを見逃さず捕まえ、興味を持って観察します。テレビや図鑑で見て、知識だけで知っている振りをする必要もありません。見つけだした時の感動を味わいながら、形や行動の不思議に気づき、生態にも関心を持つようになります。キュウリのとげとげ、南瓜の花と虫との関係を知り、同時に自分の家の野菜とも味や姿が違うことにも気がつきます。こうした観察の鋭さも身についてくることから、この年齢の教育をおろそかに出来ないことを身をもって感じます。トマトの甘さを知り、大根や白菜の菜の花も味噌汁や酢味噌和え、胡麻和え、天ぷらなどにして食べます。「お山のお野菜は美味しいね」「お花食べたらお腹が綺麗だねって喜ぶね」と、子供たち同士の会話が弾み、みんなとても楽しそう。ジャガイモづくりでは、形や色の違う男爵、メークイン、アンデス、インカ、アカネといった様々な品種を植つけます。根気の要る作業にも子供たちは驚きと興味を持ちながら携わり、作業の醍醐味を味わいます。心地よい汗を皆で流して、楽しみながら収穫を終え、食卓へと素材を乗せて、舌鼓します。
夏は暑さとの戦いですが、子供たちは汗をかきながら自然の中での遊びを満喫します。この頃には粘り強く農業体験に取り組む姿勢も見られるようになって来て、どの子も大きな成長を見せてくれる季節でもあります。シソジュースに関心を示し、自分たちで作ってみたり、野菜の種に興味を示し、縦に切ってみたり、横に切ってみたり、また野菜ごとの種の配列の違いや形の違いに驚き、物への形にも関心を示します。鶏の卵が全部形が違い、長細かったり、まん丸だったり、殻にひだのようなものがあったり、一つ一つに表情があることに子供たちが気づき、逆にこちらの観察力の無さを教えられるといった次第です。このように、この時期は物を見る目が育つ時期でもあります。生活体験を基礎に、食に関心を持ち、自ら育てたものの本物の味を味わう、こうした「食育」こそが人格形成の土台になるのだとつくづく感じています。  
写真2 鶏を抱けたら1人前
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