農業体験学習ネット
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 農業体験は、私たちの予想以上の多くの中学校でいろいろなかたちで実施されていました。それだけ「農」(「食」も含めて)は、人間にとって根源的なことであり、さまざまな視点から学べる側面を持っているからだと思われます。

 一方、日本の農業をとりまく厳しい状況は、そうした農業体験がストレートにはいわゆる「キャリア教育」(進路指導)となりにくい側面もありました。

 ここでは、さまざまな事例を、中学校現場の感覚で整理し、その特徴や課題を少しまとめてみたいと思います。

1 地域には応援団がたくさんいます

 私の取材した群馬県の前橋市本総社中でも東京、立川市の立川九中でも、また、静岡県富士市吉原第三中の「豊友会」や「ふじ友の会」、地元JAが出荷までしてくれる香川県観音寺市大野原中……ほか、地元の農家、JA、農業高校など、とにかく地域の応援団がしっかりしているところが多い、とあらためて感じました。

 農業体験をはじめた最初の動機は上からの「お仕着せ」でも、そういった応援団の方が活動をリードしてくれる、そしてそれが受けつがれて、あたりまえのように農業体験がしくまれる、という学校がたくさんあります。いや、今回取材した多くの学校がそうだった、と言えるかもしれません。

 その意味では、何でもいい。動機や目的がはっきりしなかったりしても、使う時間も「総合」でも「技術」「行事」の何でも、とにかくまわりに農家があるなら、JAがあるなら、農業高校があるなら、まずやってみよう、声をかけてみよう、ということです。もちろん、最初は、田植えだけ、芋掘りだけ、収穫体験と収穫祭、など「いいとこどり」でいいのです。またそれは、移動教室や修学旅行先での農業体験でもいいのです。まずとにかくやってみること。やるうちに活動の幅も応援団を軸に広がっていっている事例に多く接しました。

2 教員が楽しむこと

 そうした活動をすすめる中で、教員自身がおもしろい、と思えれば、またそういう教員が出てくれば、活動のなかみや幅、また地域とのつながり方もどんどん広がってゆきます。私の取材した群馬県前橋の総社中の「食農主任」小林先生も、最初は技術科なので「やらされたという感じで始めた」とのことでしたが、農業体験をやる中で、どんどん新しい発見があり、今は楽しんでやっているとのこと。京都府亀岡、別院中では中川校長先生は自らが学校自前のトラクターを自分で運転してしまうんだそうです。 もともと、「農」や「食」は、広がりのあるテーマであり、土や生きものに接すること、作物の成長を見守ったり、作り上げる体験は、多くの魅力的な発見や感動に満ちているのです。そうした体験の乏しくなっているのは子どもたちだけでありません。

 虫や天候不順などで、思ったように育たなかったたり、収穫できないこともあるけれど、それもまた次へのステップです。

 まず、教員が「農」を「食」を楽しみましょう。教員が楽しめないことを生徒たちが楽しめるはずがありません。

3 直売場で売る

 今、全国のイキのいい農家の多くは、田畑を耕し作物を育て出荷する、という「農業」以外に、自分のつくった作物をどう売るか、消費者とどうつながるか、を模索しています。それは、直売場であったり産直であったり、インターネットでの販路拡大であったり…、そこでは、作物を作ることだけでなく、どう見せればお客さんに買ってもらえるか、リピーターになってもらえるか、さまざまな工夫や調査や研究、またプレゼンテーションの力量が求められます。広島県庄原、高野中学校の農産物販売体験などをみると、売る体験まで含めることで体験や学習の幅も大きく広がっているのがわかります。

 本格的に学年、学校での農業体験などあまりやっていない私の学校(東京都調布市、第三中)でも、地元の農家をおよびしてお話を聞いたり、直売場で買った野菜で飯ごう炊さんならやったことがあります。

4 部活動でつなぐこと

 農業体験の泣きどころ(それは決して悪いことばかりではないんだけど)相手が生きものだけに計画通りにはいかないこと。この日にこの時間に種まき、田植え、芋掘り……と決めていても雨が降ったら延期をせざるを得ません。といって1週間2週間後では季節があわなくなってしまうこともあります。現場ではこれがなかなかやっかいなことです。

 また、育てている途中の作業は、学年全体でやるほどのことでもなかったり、夏休みなど長期休業中にかかったりすることもあります。

 そうしたことがフレキシブルにやれるのが、京都府亀岡、別院中の農園部のような部活動かもしれません。学校や学年での活動とは別に部活動をたちあげて、そこでそうした言わばつなぎの作業をこなしておく。続けておく。そして、それを学校や学年の活動と結びつける、というのはうまいやり方だな、と感じました。

5 他の授業への展開

 「農」や「食」の体験が社会のさまざまなところと結びついており、その体験やそこで学んだことは、まさに「総合的な学習」です。逆に言えば、それをいろいろな教科などで深めることも可能なはずだし、またそれをすることに大きな意味があるとも思います。

 ところが、なかなかそこまでいっている学校はありません。「体験させっぱなし、でいいのか」「体験学習なら何でもいいのか」といった批判にもうなずける点があります。

 その点、筑波大学附属駒場中の取組みは群を抜いています。学校内の「ケンネル田んぼ」での体験活動が国語、社会、理科、保健体育…とさまざまな教科で深められるプログラムがきちんとできあがっています。

 また、香川大学附属中学校の「人間科」も長い歴史を持っています。

 もちろんそれは、国立大学附属という恵まれた条件(まず校内に田んぼがあること、また普通の公立中学では短いスパンで教員が異動するので、なかなか活動がひきつがれないが、そうしたことが少ないこと……などなど)のもとだから可能、ということも十分わかりますが、「農業体験」などを取り組むに当たり、忘れてはならない視点を見せてくれていると思いました。

 しかし一方で公立中学が地元密着である、という点をいかし地元名産の狭山茶を取り上げ、農業体験だけでない「三CHAタイム」をもうける埼玉県入間市上藤沢中などの取組みは、公立中学校に勤務する私としては、参考になる身近な例と感じました。

福田恵一(調布市立第三中学校教諭)

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