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●行政機関による農業体験・出前授業(関東農政局東京統計・情報センター)

東京・江戸川区立二之江第二小学校の実践から

『ハスの向こうにふるさとが見える』

■校庭にハス田を復活させ、レンコンづくりに挑戦!

学校栄養職員の岡野美智子さん。今回紹介したのは、実践のほんの一部。岡野さんは昨年1年間でまんべんなく「教材」を使い込みました

子どもたちと1年の振り返りながら、レンコンづくりの写真を貼っていきます

授業当日の給食は、江戸川区の郷土料理。小松菜ごはん、れんこんのふるさと焼き、さといもの煮物、かす汁、ラフランスゼリー。授業の導入もこれでOKです

 二之江第二小学校のある東京都江戸川区は、千葉県との境に位置し、古くから農業の盛んなところで、小松菜の発祥の地でもあります。そんな背景もあり、二之江第二小では、地域の特産として、小松菜についての学習がさかんにおこなわ
てきました。
 しかし、江戸川区の特産は小松菜だけではありませんでした。昭和四十七年、二之江第二小が開校する前、学校の敷地も周りもほとんどハス田でレンコンの産地だったのです。
 そこで、昨年、平成十四年度、二之江第二小学校では、開校三〇周年を記念して地域の人といっしょに校庭の一角にハス田を復元し、レンコンづくりに取り組みました。
 栽培の中心になったのは三年生の二クラス。総合的な学習の時間のなかで、ハスグループが担当しました。四月にハス田が完成し、植え付け。七月には「ハスの花鑑賞会」、十一月の開校記念日には収穫祭を実施。さて、実際に収穫できたレンコンはというとなんと一五〇キログラム。
 そうなると、栄養職員、岡野さんの出番です。「まさか、こんなに採れるとは思ってませんでしたので、感激しました。あんなにきれいなレンコン見たのは初めて。芸術的でしたよ」
 そのレンコンは、地域の人との試食会や給食、親子での料理教室で使いました。
 「こんなにいろいろなレンコン料理をつくったのは初めて」と岡野さんが言うほど。給食で、繰り返し出てくるレンコン料理に、子どもたちからは「またレンコン?」という声も聞こえてきました。

■レンコンを題材に統計・情報センターの職員とジョイント授業
 その年の二之江第二小の食に関する指導実施案では、もともと十一月後半に三年生を対象にした「江戸川区特産 小松菜について知る」という授業が予定されていました。ちょうど、レンコンの収穫が終わり、給食でもレンコン料理が頻繁に出ているところでしたので、岡野さんは小松菜をレンコンに変えて授業することにしました。
 そこで、「食生活学習教材」(文部科学省発行、以下「教材」と略す)の登場です。その中の「地域に伝わる料理を大切にしよう」は、まさに今回の授業にうってつけです。岡野さんは、以前から郷土食や行事食については関心が高く、それまでも授業や給食で題材としてとりあげてきましたので、「教材」のこのページはしっかり活用できそうと考えました。
 授業を行なったのは、十一月の下旬、学級活動の時間です。ちょうど、一年を振り返るのにいい時期と、岡野さんは一年を通しての行事から行事食へ、行事食から郷土食へ、授業を展開しようと考えました。
 当日は、農林水産省関東農政局東京統計情報事務所(現:東京統計・情報センター)の三宅逸子さんとのジョイント授業。名づけて「ハスの向こうにふるさとが見える」。

■季節から行事へ、行事から行事食へ授業を展開していく
 「今日は郷土料理や行事食についての勉強をします。郷土料理や行事食って言葉、知ってる? 聞いたことある?」と岡野さんが子どもたちに問いかけますが、反応はいまいち。あまりなじみがないようです。
 そこで、校庭で拾ったイチョウの葉を取り出し、「これを見て何を感じますか?」と問い掛けると今度は「秋!」と答えが出ました。行事の前の段階、まずは季節を感じさせるところから始めます。
 十一月は秋、どんな季節かというところで、「教材」を活用。「どんな行事食があるでしょうか」の写真と東京統計情報事務所が製作したカラー冊子「たべもの歳時記」を組み合わせて作ったパネルを黒板にはります。
 「じゃあ、ちょっとさかのぼって、四月は、桜が咲いてお花見しましたね」と一二カ月分の一二枚のパネルをはっていきます。季節にあわせて、いろいろな行事があることがわかりました。そこで、「学校ではどんなことをしたかというと・・・・・・」子ども祭り、運動会、そうした行事にあわせた給食、つまり行事食を紹介していきます。
 「いきなり、行事食といっても子どもたちにはわかりにくい。季節はわかっているから、そこから行事へつなげ、学校の行事、そこを通して出してきた給食から行事食の意味もわかってくるように」と、岡野さんはねらっていました。
 そして、そこにもう一つ三年生の総合的な学習の時間で取り組んだ「レンコンづくり」の写真をはっていきます。子どもたちの記憶に、行事、給食、レンコンづくりを重ねていくのです。植えつけ、ハスの花の鑑賞、収穫、そして、試食会。ここで、試食会での料理を見せると
「あ、これ食べた」
「おいしかった」
と自然と声があがりました。自分たちでつくったレンコンですからなおさらなのでしょう。献立は、ちらし寿司、はすの天ぷら、きんぴら煮とまさにレンコンづくし。これが収穫をお祝いしての食事、行事食であり、地域の産物を使った料理、郷土料理なのです。
 そこで、前のテーブルに載っている、郷土料理の給食のレプリカを見せます。レプリカは日本体育・学校健康センター(現・独立行政法人日本スポーツ振興センタ)から借りたもの。実は、一週間前から、三年生の廊下にはこのレプリカを飾ってありました。前もって何だろうと思わせて、少しでも関心を持ってもらいたかったのです。ここは、「教材」をアレンジして、レプリカを使い地域の郷土料理を紹介しました。
 「これは日本の各地に伝わる郷土料理です。郷土料理ってわかりますか?ちょっと難しい言葉ですね。でも大丈夫、これから十二月の給食では、ふるさとの味めぐりということで、ここに出ている給食が全部出てきます。だから、給食で食べて今日の授業を思い出してください」
授業では消化しきれない内容は、給食でフォローします。
 「じゃあ、江戸川区の郷土料理は、特産は何でしょう?」と聞くと、当然のように「レンコン」との声。
レンコンを使った給食もこんなにいろいろあったね、と給食で出したレンコン料理を写真で確認しました。もっとレンコンについて知ってみようと、れんこん博士に登場してもらいました。

■レンコン博士登場!

「さあ、これは何でしょう?」ハスの実の写真を映し、三宅さんは子どもたちに問いかけます

博士の帽子をかぶり、レンコン博士小松菜博士になって発表します

レンコンの穴から黒板を見ると・・・

三宅逸子さん(農林水産省関東農政局東京統計・情報センター情報課 課長補佐)。栄養職員からはご指名があるほどの売れっ子講師。「自分たちにとっては何十回のうちの一回、でも子どもたちにとってはたった一回の授業。毎回、準備は大変ですが、気を抜きません」

 授業は板書から一転、スクリーンとパワーポイントに場面が早変わり。博士っぽく、三宅さんは白衣に金の「角帽」(博士がかぶるような帽子です)をかぶって、登場。子どもたちも何が始まるのか、興味しんしんです。
 三宅さんは「きみもれんこんはかせになろう!」というタイトルを出したあと、「これは何の花?」とパワーポイントにハスの花を映し、まず子どもたちに質問します。
「わかる人!」
もちろん、自分たちで育てたものですから、みんなわかります。
「じゃあ、声をあわせて」
「ハスの花!!」
「そうです。ハスの花です。レンコンの花って言う人がいるかと思いましたが、さすがハスを育てた二小のみなさんですね」
 「レンコン」というのは、根っこの食べる部分のことをいい、植物全体としては「ハス」というので、子どもたちは正解です。
 じゃあ、これは、と場面を切り替えながら、ハスの実の話、中国種と在来種があること、みんなが作った品種はふっくらとした中国種であること、良いレンコンの見分け方などを話していきます。そして栽培した一年を振りかえり、レンコンの栄養、「れんこんパワー」の話にうつります。レンコンを使った給食の写真などをいっしょに紹介しながら、「からし蓮根」の写真も映し出しました。
「これもレンコン料理です。なんていう名前か知っていますか?」
みんな、頭をかしげています。
「熊本県の『からし蓮根』という料理です」
「エー、からしィ!」
「辛そう!」
「これは、からしみそをつめて、油で揚げた料理でとってもおいしいんですよ」
 よその地域の郷土料理も紹介し、レンコンは、地域によっていろいろな料理があることを知ってもらいます。また、ビタミン類が含まれていること、食物繊維があること、昔から咳や痰をとめる働きがあると言われ、風邪のひき始めにはレンコンを食べてきたことなどを話しました。
 「これから冬に向かって寒くなりますが、レンコンをしっかり食べて、みんな風邪をひかないようにね」
 三宅さんはここでひとまず退場です。

■レンコン博士になって、みんなに伝えよう
 岡野さんは、もう一度、レンコンのパワーのすごさを確認し、ここからは前もって、宿題でだしておいた「江戸川のこまつなしらべ」「江戸川のれんこんしらべ」を発表してもらいます。
 この三年生は、昨年度、二年生の冬に、生活科で小松菜づくりを体験しており、給食でもその小松菜を使った「小松菜ごはん」を出しました。もちろん、普段から岡野さんも自分たちの住む地域でとれたものを食べるのが一番と、地元でとれた小松菜を使った給食を頻繁に出していますので、小松菜もおなじみの食材です。
 どんな小松菜料理があるか、どんなレンコン料理があるか、これについては、保護者の皆さんも子どもたちといっしょに考えてほしいと、おたよりを出していました。家庭でも小松菜やレンコンを話題にしてもらい、保護者自身にとっての小松菜やレンコンの思い出などを子どもたちに聞き出してもらいたかったのです。
 「じゃあ、発表する人はみんなレンコン博士、小松菜博士です」と発表してくれる子には、博士の帽子をかぶって発表してもらいます。
 材料、作り方、料理の由来や地域の歴史などもわかる範囲内で書いてもらいました。料理については、できあがりの絵も書いてあります。
「小松菜のからしあえ」「レンコンのしゃっきり団子」「レンコンの挟み揚げ」・・・・・・次々に、発表がすすみ、みんなが博士になっていきます。
 「お母さんが子どもの頃はこのあたりはハス田だらけだった」と、家で子どもがつかんだ情報も出てきました。

■ふるさとを知ってみんなに広めよう
 「さて、みんな、机の上にあるレンコンをそれぞれ持ってください」各グループには、小松菜一把とレンコンの輪切りにしたものを人数分用意してあります。さわったり、匂いをかいだり、じっくり見たり。
 「じゃあ、レンコンの穴をのぞいてみて、何が見えますか?」
そこで、岡野さんが黒板のまん中につるしておいた大きなサンタクロースの靴下をひっくり返しました。
 「何が書いてありましたか?みんなで、せーの!」
 「ふ・る・さ・と!」と元気な声で読み上げました。
 「そう、ふるさと。みんなが大きくなったら、自分のふるさとのこと、レンコンや小松菜のことを、周りの人や下級生にも教えてあげてください」
これで、「ハスの向こうにふるさとが見える」の授業が終了です。
 「れんこんしらべ」「こまつなしらべ」の用紙は、さっそく廊下に貼りだし、他のクラスの子、他の学年の子、もちろん先生にも見てもらえるようにしました。

■「教材」は学年にあわせアレンジして使う
 「『教材』には郷土食や行事食についての、基本的な考え方、ベースができているのが助かる」と岡野さん。授業では「教材」は導入の行事のところで使い、そのほかは、実際の給食や子どもたちの写真などを用い、できるだけ、行事食、郷土食が自分たちの身近なものだということをわかってもらえるようにしました。特に今回は三年生だったので、「教材」をそのまま使うとちょっと難しいので、そのあたりはアレンジして使ったのです。
 今回、ジョイント授業をお願いした東京統計・情報センターでは、平成13年度から、学校への出前授業を実施していますが、岡野さんたち学校栄養職員とのジョイント授業は、昨年度から始まりました。
 「岡野さんたちがわざわざ事務所に来て、ぜひいっしょに授業にやってほしいと指導案を持ってお願いに来られたんです」と三宅さん。
 そのとき、いっしょに持ってきたのが「食生活学習教材」。こういう教材ができたので、この教材を使って、ジョイント授業をやりたい、とのこと。「教材」を見せてもらい、三宅さんは自分も欲しいと思ったほど気に入りました。「こういう郷土料理を写真で子どもたちに見せられる資料があるというのは、こちらも授業がやりやすいですね。特に、ご飯を中心に、魚や海藻などの日本食について取り上げられているところがいいんですよ」
 三宅さんにお願いにいった学校栄養職員は東京都学校給食研究会の分科会のメンバー。みんな以前から、授業での実践もあり、給食時間の指導もばっちりやってきました。そんななかで、日本の農業、野菜、食料事情など、子どもたちにもっと関心を持ってほしいと考えていました。だったら、その部分はプロに頼もうというわけで、三宅さんに協力してもらうことになったのです。
 分科会の他のメンバーでは、六年生で、やはり昨年度、「教材」を使い、三宅さんとジョイント授業を実施しました。全国各地の農産物から郷土料理へ、そこから地元の郷土料理、ご飯食のよさ、日本の食料自給率などへ話を展開させました。全国各地の農産物、地域でとれる野菜と畑の広さ、野菜の消費量や、食料自給率など、こういうデータをそろえるのは統計・情報センターではお手の物です。このような地域の先生と組むことで、授業がいっそう深まり、「教材」のねらいがより活かされるのです。
 「一コマの授業を一人で担当すると、あれも伝えたい、これも伝えたいといろいろなことを話したくなるけれど、ジョイント授業ならば、ポイントがしぼれる。三宅さんがいることで、私は私の立場で話ができるんです」
 岡野さんは、給食はもちろん、「教材」も活用し、地域の先生と連携を組みながら、食に関する指導をすすめています。

※「食生活学習教材」は、2002年度から文部科学省が発行し、毎年小学校5年生、中学校1年生全員に配布している学習教材。朝ごはんの大切さや食事の栄養バランス、地域の産物と郷土料理など、健康で文化的な食生活をのあり方について、子どもたちが自ら考えていくことをサポートする内容になっている。2004年度からは小学校1年生向けの教材も発行され、小学校1年生全員にも配られる。

(『食文化活動』36号より抜粋)

<関連情報>

  • 関東農政局東京統計・情報センター
  • 農業体験学習ネット 受入情報

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