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●八ヶ岳山麓での農林体験学習(八ヶ岳中央農業実践大学校 研修部 福田直彦)

  八ヶ岳中央農業実践大学校は信州八ヶ岳の西麓、標高1300mの高地に位置し、学生・職員一体となって作物の栽培・家畜の飼養を実践し、明日の農業を担う人材の育成を目標としています。体験学習をされる生徒の皆さんが雄大な大自然の中で、農林業への理解を深め、同時にいのちの大切さ、自然の中での人間という存在について何か感じ取っていただければと、1994年より農林業体験の受入れを行っており、毎年東京の中学校を中心に8,90校(団体)近くが体験学習に取り組んでいます。

1 私たちの考える農林業体験の意義
 各種の職業体験学習は、普段知ることの少ない仕事の現場を体験することで、日常の生活や授業の中では得難い貴重な経験となることは言うまでもありません。特に、農林業は作物・家畜といった生命を相手に、自然環境の中で営まれるという特殊性を持った産業です。そこで体験学習に際しては、生徒の皆さんが以下のような目的意識を持って臨むことを期待し、それぞれのコースがその目的達成の一助となるようにカリキュラム編成を行っています。

(1)命の尊厳と大切さを感得する。
(2)地球環境に対する理解を深め、身近な問題とする。
(3)学習の基盤となる生活体験を豊かにする。
(4)勤労の意義を理解し、収穫の喜びや働く事の喜びを感得する。
(5)「試す事によって学ぶ」帰納的な学習をする。
(6)自己の適性・能力を知り、将来の進路選択に資する。

 体験では、11のコース(2004年度からはさらに2コースを新設予定)を設定して生徒の希望により人数を振り分けて、体験学習してもらいます。学校によっては事前学習をした上で実施しているところもありますが、まだ多くのところでは事前の準備が十分とはいえません。そこで本校ではテキストとして「農林体験学習の手引き書」(A4判、40頁)と体験の様子を撮影したビデオを作成し、これを使って家畜・野菜の生理生態や林業の営みなどについても学んでもらいます。

 わが校では、体験の指導者を本校で研修している学生と外部講師に依頼しています。こうした講師陣にはマンネリ化した指導にならないように、定期的に指導方法の学習をする必要があります。レシピを用意してポイントを理解しやすいように解説したり、体験に興味が湧くように上手に誘導してやったりと、常に細やかな配慮を欠かさないことを心がけるように指導しています。こうした指導のもとで行う体験を通じて、生きものとしての家畜や土・野菜・花と向きあい、生きものの「暖かさ」や「優しさ」にふれ、生命を慈しみ、尊ぶことの意義についても学んで欲しいと思います。

 現在、わが校での体験受入れは、時期として5月から10月、受け入れ対象としては中学校が中心になります。そのためなのか、体験実施日が5月や9月に集中しています。今後は毎月平均的に実施する方向で、学校のカリキュラムとも照合しながら進めていきたいと思っています。

 2004年度からは正式に体験専用の圃場を年間通じて設けますが、そこに体験した学校の札を立て、圃場での生育状況について定期的に体験校にデジカメの映像で報告し、年間通じて学校のカリキュラムに位置づけてもらい、生徒の学習に役立ててもらうことを考えています。また、コースとしては「むかしの農機具体験コース」と「ハーブコース」を新設。「むかしの農機具体験コース」では、馬や牛に代わって人力で犂を使って畑を耕すなど、むかしの農機具を農作業に活用する中で、効率という考え方だけでは見えてこない、むかしの道具に込められた知恵や工夫を学ぶことを目指します。

2 恵那北中学校の体験事例から
 岐阜県恵那市立恵那北中学校では、生徒の研修のプログラムとして、毎年5月頃2年生が農業体験を行っています。研修のねらいとして学校側で考えているのは、(1)勤労の尊さや意義を理解し、働くことの喜びを体感する、(2)命の尊厳や大切さを感得する、(3)自然の美しさや尊さを感じる、の三点。当校のカリキュラムにあわせて、以下の9コースに分かれて体験に取り組みます。

・豆腐作りコース
・バター作りコース
・養鶏コース(鶏舎の掃除、集卵、洗卵、パック詰め)
・養豚コース(糞尿処理、清掃コース、牛の餌やり、ブラッシング)
・温室コース(鉢の植え替え、花の手入れ、種蒔き、廃材整理)
・山林コース( 巣箱作り、巣箱かけ)
・野菜コース(除草、種蒔、間引き、移植)
・葉菜コース(除草、間引き、種蒔き)
・酪農コース(清掃、牛の餌やり、ブラッシング)

 これらの農業体験を通して、今まで経験したことのない仕事の厳しさをほとんどの生徒が経験したようです。また、作物を育てることの緊張や喜び、家畜を育てる気概や苦労など、普段の生活では学べない多くのものが体験できたことを学校側では喜んでいます。以下は、体験に参加した生徒の感想です。 

・私は二日目の午前に温室コースに行った。温室コースでは花のたねまきをした。「ビックスマイル」という花をうえた。ビックスマイルはふつうのヒマワリとちがい長さが短い花だと教えてもくれた。(略)ビックスマイルのほかにも枝豆なども育てていた。私は大きなケースからポットという小さな入れ物に移す作業を手伝った。茎が細くておれそうになったが、真剣にやった。あとから研修生の先生がみえて、ビックスマイルの名前の下に私の名前を書いて、「これが育ったらおくってやるな。」と言った。ビニールハウスの中はすごく暑くて大変だったけれど、学生さんともいっぱい話ができたので楽しかった。それに花を育てる楽しさがわかって本当によかった。

・今振り返ってみると、「今やれ」と言われてもできないくらい頑張れたと思います。やっているときは「つらい」と思ってばかりいたけど、後から思うとあんな体験はあそこでしかできない貴重なことだったし、私達の頑張りが鶏に伝わっていることが、また喜びにつながります。いつも私達の食べているものに対して、温かい心で育ててくれる人たちに、このような体験をさせてもらえてとてもよかったです。(中略)働くことはとてもつらいですが、それが植物・動物の大きな支えになることがとてもわかりました。八ヶ岳に行って、このような体験ができたからこそわかりました。だから相手が何であろうと、自分がしんけんになっていろんな活動をしたいです。

3 今後の課題
 農業体験活動を当校の主要事業の一つとして取り上げてから10年余り経ちました。まだまだカリキュラムや実施体制なども工夫と改善が必要であると考えております。以下にその課題と改善方向について私たちの考えを述べます。

 まず、体験の手引きとなるテキストについては、今後内容を体験の実態にあわせながらさらに改善し、充実させていきたいと考えています。今後は特に、その生産に係っている農林業者の現状についても、しっかりと理解してもらうような内容にもしていきたいです。
 また、「総合的な学習の時間」が始まってからは、林業体験を希望する学校が増えてきています。林業体験では、生活との関わりの中で「水」や新鮮な「空気」を生み出すとともに、国土を保全し、環境を守る森林の役割について体験を通じて学べるようにしたいと考えています。食の体験に関しては、近年偏食や孤独食などと言われていますので、食べることの大切さや本当に安全なものを自分たちで調理して食べることの意味を知ってもらうために、この地で収穫された作物を素材として、郷土料理づくりの体験も取り入れて行くつもりです。

 安全な野菜づくりのためには何といっても土づくりが大切です。家畜の糞尿や家庭の生ゴミも作物の生育に欠かすことの出来ない立派な栄養源になることを体験させたい。その方法としては、土着菌の働きを説明した上で、生ゴミなどの有機物を土着菌により発酵させます。そうすると有害な成分が分解されてなくなり、植物の成長に有効に働きます。こうした基本的な体験をしてもらい、そのようにして栽培された野菜が人間の体にとって安全だということについて、身をもって体験してもらいたいと思います。

 また、現状では家族単位の体験は年間7家族ほどですが、今後は家族ぐるみや友達同士で体験できるコースとして、「親子のふれあい」、「動物とのふれあい」、「友達同志での体験」といった体験企画(乳搾りや野菜の収穫体験など)にも力を入れていきたいと考えています。そして、体験者がリピーターとなって何度も体験を繰り返す中で、農林業への理解を深めてくれるとともに、子供たちが心身共にたくましく育って欲しいと思っています。

<関連情報>

  • 八ヶ岳中央農業実践大学校 農林体験学習

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