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自然との「共生」をめざす栽培

● 桶川市立桶川東中学校 S教諭

■ 子どもたちを取り巻く環境の現状と課題

 子どもたちを取り巻く環境は日々変化している。学校周辺の農地は減少し、都市化が進んでおり、生活習慣も多様化し、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどの外食産業が盛んになってきている。このような中で、子どもたちの食生活は家庭の料理から離れ、外食産業に移行する傾向もあるようである。自分が食べたいものだけを食べるという偏食傾向もあるように感じる。

 学校給食時における生徒の食事の様子を観察してみても顕著に現れている。肉などはおかわりをするほど進んで食べるが、サラダなどの野菜は残す生徒が多い。本校の給食は自校給食であり、季節の旬の食材などを取り入れたメニューが栄養士により毎月の献立に組まれている。しかし、そのことに生徒はあまり関心を持っていない。

■ 農業体験の取り組みに対するおもい

 民法のテレビ番組に農村での生活体験を放映する番組がある。生徒はこの番組を知っている。また、生徒の意見は一様におもしろいと答える。

 農作業に触れることのない生徒にとって、番組の内容は新鮮であり、とても興味深いことのようである。

 農業体験学習を自分の担当している教科である技術・家庭科を通じて行うことにした。技術・家庭科の目標は、「生活に必要な基礎的な知識と技術の習得を通して、生活と技術とのかかわりについて理解を深め、進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる。」であり、農業体験は、この目標にも合致していると考える。

 農業体験を通して、視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚の五感を働かせ、感動や驚きを体験することが、問題解決能力を育成する上で大切なポイントとなる。さらに、問題解決の過程で得た知識力、技術力は教科の基礎・基本とし、その確かな学力は自分の生活において気付き、考え、実行できる「生きる力」につながっていくと考える。

 農業体験学習を通して、以下の事項をねらいとした。

 ○栽培に関心を持ち、生活をよりよくするための方策を考える
 ○勤労の尊さに気付く
 ○生命の尊さ、自然環境の大切さを知る
 ○栽培に関する基礎的な事項と栽培と生活のかかわりを理解する

 実践するに当たって、無農薬、有機栽培にこだわった。作物を確実に実らせるというよりも、環境にやさしく、なおかつ人に優しい栽培を生徒に考えさせたいという観点からである。日常の手入れを通して、苗が大きくならないという問題や、病気や害虫の防除についての問題に気付かせ、その解決の方策を考えさせたいというねらいもあった。さらに、収穫した作物と市販の作物を比較させて、色、形、味の違いや作物の安全性などを考えさせた。これらには、これからの食生活について、安全性を見極める確かな目を育てたいというおもいが込められている。

■ 実践

(1)はじめは栽培環境に課題あり

 初年度(平成15年)は校舎脇の、100m²ほどの土地を耕し畑にした。それまでにも、サツマイモの栽培をしていた土地であった。さらに、花壇の一部を利用した。取り組んだ作物は、トマト、とうもろこし、なす、キュウリ、ワイルドストロベリー、スイカ、サツマイモの7品目である。周囲は校舎と桜の木に囲まれ、日があまり当たらず、作物を育てる環境としては適していなかった。しかし、そんな状況でも作物が実り始めると生徒は自主的に観察を行った。

(2)はじめは、土作りから

 2年目(平成16年度)からは、校庭の隅に畑を移した。そこは、以前バドミントンコートとして使用していた場所(面積約250?)だが、現在バドミントン部が廃部となり使用していない。太陽の日を遮るものがなく、民家に囲まれていることもあり、風等の影響が少ないため環境は最適である。幸い校長も、学校菜園を快く承諾し、勧めてくれた。

 しかし、土地は旧グランドであり畑としては貧困である。そこで、まずは土地を耕し、土づくりをする必要があった。土地を耕すための道具がそろっていないため、スコップで生徒が掘り起こしてくれた。

 畑にして作物を育て収穫するためには、生育に多くの土壌成分が必要である。本校は栽培の取り組みを始めた年から、秋の枯れ葉が落ちるころに枯れ葉掃きボランティアが集い、奉仕作業をしている。そして、その集められた枯れ葉を堆肥にする。

 しかし、学校で作った堆肥だけでは栄養が不足と思い、地域の方々にご協力をいただいた.学校周辺に牧場を営んでいる方がおり、牛糞を快く提供していただいた。発酵し乾燥させた牛糞はまだ温かく、生徒にとっては初めての体験であり、糞を積み上げた山に手を入れるなど大きな関心を示していた。

(3)日々の手入れ

 各クラスとも生活班(5〜6名)で活動し、6品種の作物を選んだ。作物はそれぞれ手入れの仕方が異なるため、班でインターネットや図書室を利用して調べた。生徒の中には、家庭菜園をしている生徒もおり、保護者のアドバイスをもらう生徒もいた。苗の植え付けの仕方もまちまちである。班の中にはマルチング(敷藁)を行うところもあった。

 観察や手入れは主に授業中に行う。トマトは頻繁に摘芽をする必要がある。キュウリは生長が早いため、支柱に誘引を行う必要がある。また、作物は各班で責任を持って管理するよう指導した。

 作物が実りはじめると関心は高まり、自ら頻繁に観察し、いつごろ収穫できるのか気にするようになった。作物を非常に大事にするなどの思いやる気持ちが出てきた。

 そんな中で、スイカが収穫間近になると鳥による攻撃を受けた。このことは、教科書等には載っておらず、なかなかよい策を見つけることができなかった。

 対策として防鳥糸を張り巡らせ、不要となったCDや黒いビニールを周囲に吊した。

 また、病害虫対策では給食で残した牛乳を利用するなど、生徒はいろいろな問題に対する解決方法をよく調べて取り組んだ。

(4)収穫を迎えて

 作物の収穫時期がある程度同じころになるような作物を生徒に選ばせた。それでも少しずつ収穫時期は異なった。キュウリは生長も早く6月後半から収穫ができた。スイカは8月後半からが収穫時期となる。

 夏休みを挟んでしまうため、授業で同時に作物について考えさせることがなかなかできない。各班がそれぞれ異なる作物を栽培し、自分がかかわる作物について知るに留まらせず、発表をさせてお互いに栽培について学んだことを共有させることにした。

■ 栽培の学習を通して生徒が感じたこと

 「自分でトマトを育てるのは小学校の時以来だったけど、ここまできちんと調べて育てたのは初めてだったから楽しかった。」

 「栽培を一からやってみたのは初めてで、大変だと思った。農家の人たちは日本中の人たちが食べるのを作るわけだから、有機栽培となったら大変だろうなと思った。」

 「インターネットでキュウリの栽培方法を研究し、それを参考に栽培することができたと思う。虫に食べられてしまって大変なこともあったけど、その分、できたときの達成感があった。」

 多くの生徒は、その感想に機会があればまた栽培をやりたいと書いており、この学習を通して収穫の喜びを感じたようである。

■ 栽培で得たことを世界に発信!

 「栽培をとおして学んだことは、自分のものだけにしないでみんなで共有する。」というねらいから、Webページを作成し、世界への発信を計画している。コンピュータでHTMLのタグを使いWebページを作成した。今までに撮った画像を利用し、各自が学校紹介のWebページを作成している。今後、フリーのサイトに登録をさせ、世界に発信していく予定である。

■ これからの栽培と生活について

 収穫した作物と市販の作物の色や形などの見た目や味を比較した。また、その結果をクラスで共有するため、まとめ学習を行い発表させた。

 「スーパーにある野菜は美しく見えたとしても、中までいいか…?と思うと、そうとは言い切れないと思う。値段だけではどうにもならないことが、無農薬と農薬使用の野菜の違いとしてあると思う。実際トマトとキュウリを食べてみて、いつも食べているのよりみずみずしくて、おいしかった。これだけ違うとは思わなかった。」

 「やはり野菜はできれば“安い・無農薬・形がいい”これがそろえば1番いいのだと思います。僕は、少しばかり高くても無農薬の方が安全でそっちの方がいいです。逆にあまり安すぎると品質に問題があるのでは?と疑ってしまいます。」

 栽培の学習を終えても生徒は栽培や作物に高い関心を示している。今後はさらに環境の整備を行い、様々な品種の栽培の工夫や家庭分野との連携を図っていきたいと思う。


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