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埼玉県立総合教育センターの取り組みから
〜「生きる力」をはぐくむ食農教育の推進〜

■ はじめに

 国民の食生活が乱れ、不規則な食事が子どもの成長に悪影響を与えています。このような実態を踏まえ、正しい食生活の知識普及を目指した食育基本法が2005(平成17)年7月に施行されました。国及び地方自治体の責務として食育の施策推進を掲げる一方、教育界や食品・農林漁業関係者にも食に関する国民の理解を深める努力を行うことが義務付けられました。また、地域の伝統的食文化の継承や、食の安全性を高める調査・研究など、行政機関が果たすべき役割が示されました。

 2006(平成18)年3月には食育推進基本計画が策定され、食育推進に関する施策の基本的な方針や具体的な目標に関する事項が盛り込まれました。地方自治体が食育を推進するに当たり、国との連携を図りながら地域の特性を生かした施策を策定し、食育を推進することが求められています。計画期間は平成18年度から平成22年度までの5年間とされています。

食育の推進に関する施策についての基本方針

  1. 国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成
  2. 食に関する感謝の念と理解
  3. 食育推進運動の展開
  4. 子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割
  5. 食に関する体験活動と食育推進活動の実践
  6. 伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び
    農山漁村の活性化と食糧自給率の向上への貢献
  7. 食品の安全性の確保等における食育の役割

 埼玉県では国に先がけ「埼玉県食の安全・安心条例」を2004(平成16)年9月に施行し、県民参画による施策の展開や地域の特性に応じた取組を推進しています。生産から消費にわたる一元的な食品の安全確保に関する施策を体系化した行動計画として、「埼玉県食の安心アクションプラン」を策定し、新たな取り組みを進めています。

「埼玉県食の安心アクションプラン」取組の5本柱

  1. 県民参画による施策の展開
  2. 安全で安心できる農産物の生産供給の促進
  3. 生産・流通にわたる自主管理の徹底と監視指導の充実
  4. 正しくわかりやすい情報の提供
  5. “さいたま”の食文化を子どもたちに伝える

 県民一人一人が食に関心を持ち、食べ物の選び方や安全性、さらには「食」をとおして故郷の味を守り、環境を守る農業やものづくりの大切さを学ぶ「食育」、「食農教育」への期待が高まっています。

■ 今、なぜ「食農教育」なのか

(1)「食」の教育の必要性

 「食」は、健康、生活、精神にいたるまで、生きるための基盤であります。しかし、栄養的にもバランス的にも、理想に近いといわれてきた日本人の食生活は様変わりし、栄養摂取の偏りや脂肪の取りすぎ、朝食の欠食など「食」の乱れに起因する様々な問題が指摘されています。次代を生きる子どもたちには、「食」に関する正しい知識と、ライフスタイルに合わせた食の自己管理能力が求められています。

(2)「農」の教育の必要性

 「食」の乱れの背景には、農業や自然に対する子どもたちの生活体験の少なさがあると指摘されています。「農」の持つ教育力の大きな特徴は、命あるものを育てるという過程に直接関わる体験をとおして、発見や驚き、喜びと悲しみなど、様々なことをじかに体感することにあります。そのことによって、知の前提となる感性をはぐくむことができるのです。こうして身に付いたものが、まさに「生きる力」の土台となるのです。

(3) 「食農教育」とは

 「食農教育」は、「食」の教育と「農」の教育それぞれが別々のものではなく、一体として進められる学習活動です。毎日食べ物がどこでどのように育てられ、どのようにして食卓に届けられるのか、そのプロセスを知識として知る。さらには、自ら栽培・飼育等の体験を重ねる。つまり、自分とのかかわりの中から「食」や「農」を考えようとする視点を持つことが「食育」と異なる点といえます。五感を使った実体験をとおして「食」と「農」を一体的に学習させる取組を、当センターでは「食農教育」と定義付けしています。

 「食」の教育と「農」の教育をつなぐことにより、食の大切さや生命の尊さを学ぶだけでなく、「生きる力」の基礎となる健康と体力、豊かな感性をはぐくむほか、伝統文化の継承、社会性の涵養など複合的な教育的効果が期待できます。

 「食」は単に栄養を補給し、命をつなぐためだけの作業ではありません。他の生命から命をいただく感謝の気持ちや、代々受け継がれてきた日本の食文化、そして何より、家族とともに食卓を囲み、ともに生きる家族の存在を認識するかけがえのない場であるのです。

 「食農教育」に各学校が校長のリーダーシップの下で積極的に取り組むことで、家庭や地域の教育力を向上させ、子どもの健やかな成長を促す仕組みづくりが進むものと思われます。

■ 埼玉県立総合教育センターの取り組み

 「食農教育」の基本は、児童生徒自らの体験を通じた学びであり、その体験の中から、発見、感動、創造の芽が伸びていきます。そして、体験により何かをやり遂げた、できたという小さな成功や失敗が積み重なって、達成感や成就感が育まれます。教材としては植物や動物など命あるものが最適で、特に野菜、穀物、果実、家畜などの栽培・飼育活動を行うことが必要です。さらに、その命あるものを食することによって、私たち人間の生命があることを経験によって体感することが重要です。

 しかし実際には「教師自身が経験がないので適切な指導ができない」「実践するにも適当な場所がない」等の声を聞くことも少なくありません。そこで、当センターでは、「食農教育」を「学校文化の創造」のための具体策のひとつに掲げ、教職員を対象にライフステージに応じ、総合的、体系的な研修を推進しています。江南支所においては、施設・設備を生かした「食と農」に関する研修を中心に実施し、各学校において農業の持つ教育力を生かした教育実践に取り組むことができる教職員の養成を行っています。教師自らが直接農業体験を行うことによって、自らが発見し感動することを体感できる研修プログラムを実践しています。

 当センター独自の取組として、埼玉県内の教職員が個人で自由に参加できる新しいタイプの講座(サタデーサポート講座)を平成14年度から実施しています。また、平成16年度から公立高等学校、平成17年度からは特別支援学校、学校栄養職員の初任者全員を対象に、食農教育体験研修を実施し、すそ野拡大に努めています。さらに、採用後10年を経験した教職員を対象に、所属校における教育実践を支援する特設研修会を実施しています。

 実施形態が異なりますが、市町村教育委員会等が主催する研修会に指導主事を指導者として派遣する研修も、平成17年度から行っています。

 平成19年度に実施予定の「食農教育」に関する研修は、次のとおりです。

〈年次研修〉

(1)高等学校初任者研修 食農教育体験研修

【ねらい】
 公立高等学校新任教員全員が農業体験活動をとおして食農教育の必要性を認識し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】100名

(2)特別支援学校初任者研修 食農教育体験研修

【ねらい】
 公立特別支援学校新任教員全員が農業体験活動をとおして食農教育の必要性を認識し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】60名

(3)新規採用学校栄養職員研修 食農教育体験研修

【ねらい】
 公立学校新規採用学校栄養職員全員が農業体験活動をとおして食農教育の必要性を認識し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】20名

(4)新規採用養護教員研修

【ねらい】
 公立学校新規採用養護教員全員が食に関する体験活動をとおして食農教育の必要性を認識し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】2日
【参加予定】60名

〈10年経験者研修の選択講座〉

(1)食農教育特設研修会〜稲作体験で学ぶ〜

【ねらい】
 公立学校10年経験者教職員を対象に、イネを教材にした体験学習や食に関する指導法を研修し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】30名

(2)食農教育特設研修会〜発酵を科学する〜

【ねらい】
 公立学校10年経験者教職員を対象に、発酵食品を教材にした体験学習や食に関する指導法を研修し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】30名

(4)食農教育特設研修会〜肉牛と卵で学ぶ〜

【ねらい】
 公立学校10年経験者教職員を対象に、畜産物を教材にした体験学習や食に関する指導法を研修し、日常の教育活動に役立てる。
【期間】1日
【参加予定】30名

〈専門研修・一般教職員向けの講座〉

(1)こころとからだをつくる食農教育研修会(初級編)

【ねらい】
 公立学校教職員を対象に、食農教育を学校で推進するための指導の基礎・基本を学び、指導力の向上を図る。
【期間】3日
【定員】30名

(2)やってみよう学校栽培研修会(初級編)

【ねらい】
 公立学校教職員を対象に、施設・設備などの条件が栽培に適さない学校でも栽培学習ができるよう、容器栽培を中心に栽培の基礎知識・技術を習得する。
【期間】2日
【定員】20名

(3)米と麦を教材とした食農教育研修会(中級編)

【ねらい】
 公立学校教職員を対象に、 米や麦の栽培と加工法を研修することで「食」と「農」に関する理解を深め、食農教育の指導法を習得する。
【期間】3日
【定員】20名

(4)家畜を教材とした食農教育研修会(中級編)〜ニワトリ・牛肉から学ぶ〜

【ねらい】
 公立学校教職員を対象に、家畜の飼育管理から畜産物の生産・流通・消費までの過程を知ることにより食に対する理解を深め、食農教育の指導法を習得する。
【期間】2日
【定員】20名

(5)地域資源を活用する食農教育研修会(中級編)〜狭山茶に学ぶ〜

【ねらい】
 公立学校教職員を対象に、地域の素材と人的資源の活用法について研修し、地域と学校をつなぐ指導者を養成する。
【期間】2日
【定員】20名

〈サタデーサポート講座〉

(6)食農教育フォーラム

【ねらい】
 食農教育実践校を会場に、公開授業、実践事例報告、シンポジウムを通して、健康な心、健康な体、健康な生活のための食と農の指導の大切さを学ぶ。
【期間】1日
【定員】100名

(7)家畜を教材とした食農教育サタデー研修会(中級編)〜酪農体験から学ぶ〜

【ねらい】
 酪農家を会場に、乳牛の特性や乳加工について体験を通して理解を深め、食農教育の指導法を習得する。
【期間】1日
【定員】20名

(8)地域資源を活用する食農教育研修会(中級編)〜狭山茶に学ぶ〜

【ねらい】
 循環型農業に取り組む農家を会場に、農業体験(サツマイモの収穫等)を通して食農教育に関する理解を深め、地域との連携の進め方を研修する。
【期間】1日
【定員】20名

〈要請研修〉

(1)食農教育の視点

【主な内容】
 学校や家庭に必要な食農教育の視点について講義を行う。

(2)体験活動の指導方法

【主な内容】
 農業体験・自然体験学習の効果的な指導方法について、講義及び実技指導を行う。

(3)学校農園の活用

【主な内容】
 学校農園・花壇を活用した教育活動について、講義及び実技指導を行う。

(4)バイオテクノロジーの活用

【主な内容】
 バイオテクノロジーに関する基礎的な知識や技術について、講義及び実技指導を行う。

■ 研修参加者の教育実践

 校種や地域の特性等によって実践の内容は異なります。同じ教材を使って多種多様な教育活動を展開できるのが「食農教育」の醍醐味でもあります。次頁以降に紹介する実践事例は、食農教育研修に参加した教職員が中心となり、創意工夫を図り実践を行った結果大きな成果を上げている事例です。

■ おわりに

 埼玉県立総合教育センターでは、時代を拓き学校文化を創造するオピニオンリーダー誌「埼玉教育」を刊行しています。元気な学校づくりのための先進的な取組や教育実践の紹介を随時行っています。

 また、体験学習法の理論に基づく農業体験や自然体験を実践するための学習プログラムを独自に開発し、ホームページを通じて情報発信しています。

 詳しくは埼玉県立総合教育センターホームページをご覧ください。
 URL http://www.center.spec.ed.jp/


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