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TOP農への関心の高まりと新たな光の中で! > 4 職場体験実施後の学習について(3/3)

3 東京都三鷹市立第6中学校における実践を通して

農への“まなざし”を

三鷹市立第6中学校教諭 福田 恵一

 全国どこでもよほどの都市部の中心地でない限り学校の周辺に田んぼや畑、果樹園、牧場、鶏舎、厩舎などが存在します。そしてそこでは間違いなく“農業”や“畜産”が営まれています。

 それらが社会に果たす単に産業にとどまらない多面的な役割は、すでにこの報告書の中でも多くの方が語られているとおりです。

 また、そうした“農業”が果たす産業にとどまらない多面的な役割は、中学校の社会の教科書などにも取り上げられています。現に私の学校の使う清水書院公民の教科書でも食料・農業・農村基本法の説明として「農業が食料の生産以外にも、国土や自然環境の保全、水源の涵養や美しい景観の提供などのさまざまな役割をはたし」ていると書かれ、棚田の写真なども掲載されています。このように社会的にも認知されている“農業”や“林業”など第一次産業の大切さは、多くの中学生も言葉としては知っています。

 しかし、それはあくまで「文字情報」としての“農業”や“林業”であって、子どもたちが、学校の周辺で、また自分の田舎に行った時の、目の前にある田んぼや畑、牧場などとはつながっているとは思えません。

 農業体験は、そうした状況をこえて、第一次産業を子どもたちの生きる日常世界につなげる役割を持っていると思っています。つまり子どもたちに“農”に対する“まなざし”をつくること、そんな意味があるのではないでしょうか。

まずやってみること

 一方で、“農”や“食”についての取り組みは、食育基本法の制定などもあって“追い風”が吹いています。やろうと思えば、地域に、移動教室や修学旅行実施先に、さまざまな応援団がいて、JAをはじめ農業体験を受け入れる農家、団体などはインターネットなどで探すことができるようになっています。

 最初は芋掘りだけ、田植えだけでもいいのです。そうした応援団の力を借りて、農業体験は、まずとにかくやってみること、チャレンジしてみることです。あまりむずかしいことは考えず、それぞれの学校のさまざまな事情の中で、やれる限りのことを楽しくやればいいのです。

 農(業)体験は、やってみるとさまざまな発見があり、思った以上に教員(大人)も十分に楽しめるし、そのことが子どもにも必ず反映します。

私の学校でも

 私自身は、平成20年4月に現任の三鷹市立第六中学校(以下「三鷹六中」)に赴任し、1年生を担当して、この学校でも初めての「農業体験」を実施しました。東京都三鷹市と言えば、中央線で新宿から20分、吉祥寺や三鷹の駅前の賑わいからは「都会」しかイメージできませんが、一歩中に入った私の学校(三鷹六中)のある新川、北野地区には、まだまだたくさんの農家が点在し、生鮮野菜を中心とする都市型農業が営まれています。そうした中で、学区内の24軒の農家が150人の1年生を受け入れてくれて、7月に1日(現実には半日)だけですが「農業体験」を実施することができました。どの農家も大変協力的で、子どもたちは、ジャガイモを掘り、トウモロコシやトマト、キュウリを収穫し、もぎたての野菜をおいしくいただいてきました。

 もちろん、この学校でも初めての取り組みであり、当初は、受け入れ先が集まるのか?子どもたちは失礼なく活動できるのか?雨が降ったらどうするのか?……さまざまな心配がありました。しかし、やってみると子どもたちは、楽しい一日(半日)を過ごし、喜んで帰ってきました。子どもたちは身体を動かすことが大好きですし、土や作物に触ること、地域の大人に体験しながらお話を聞くことは(ミミズやクモだけで大騒ぎになる子どもも含めて)それだけで“教育力”を持っているのです。

 当初、受け入れ農家は、農業体験を企画した校長が、地域のさまざまな会合、組織などでお願いして集めてくれましたが、小学校の体験を受け入れている農家も複数あり、らくらくと、とは言えないまでも24軒の農家を見つけることができました。また、受け入れ農家にとってもイキイキとした中学生のようすは好感を持って迎えられ、来年度につながることは間違いありません。地域の人たち、特に古くからの農家は、多くがこの学校の卒業生でもあり、学校に協力したいと思っているのです。

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ジャガイモの植え付け

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ジャガイモ掘り

応援団はあちこちに存在する

 前任の羽村市立第一中学校(羽村一中)では、職場体験でその一部を農家に割りふるとともに、移動教室の八ヶ岳自然教室でも、簡単な「農業体験」に取り組みました。山梨県高根町(当時、今は周辺と合併して北杜市)のクラインガルテン(市民農園)にお願いしての田植え、清泉寮や近くの牧場のプログラムを利用しての酪農体験(乳搾りや牛舎の清掃など)、地元の農家にお願いしての高原野菜・白菜の苗の植え付けなどを実施しました。

 この場合も「農業体験をしよう」と、八ヶ岳清里を選んだわけではありません。清里に羽村市の施設があり、そこを利用しての移動教室で新しいプログラムとして「農業体験もやってみよう」と考えて、探したら、多くの受け入れ施設、組織がすでに存在しており、それらを活用しただけです。

 なお、これらの活動について少しハウツー的なことも書いておくと、私も含めほとんど「農作業」にはシロウトの学年の教員集団での取り組みですから、事前学習と言っても特別なことをしたわけではありません。体験先(受け入れ先)のアドバイスにしたがって「当日は長袖、長ズボンでよごれても言い服装、靴は長靴か汚れてもいい運動靴、持ち物は軍手、タオル」と指導したぐらいで、「しおり」なども通常の形式で行いました。

 これらは、私のつたない体験談ですが、このプログラムを考えるに当たり、私が取材した群馬県前橋市の元総社中でも、東京都立川市の立川九中でも、地域の応援団がしっかりと学校農園を応援してくれています。それ以外のほとんど事例も、そうした周辺の力に支えられているのです。

活動を深めるために

 もちろん、一回だけの、それも「いいとこどり」(芋掘りだけ、とか田植えと稲刈りだけ…など)の農業体験で何がわかるのか?イベント的に「農業体験」をやることでどんな意味があるのか?という疑問、批判は私自身も受け入れるところです。(と、言いながらも、土や作物に触れるという体験すらほとんど持たない今の子どもたちにとって、それだけでもそれなりの意味はあると思っています)

 そこで、次に、こうした活動を深めるための取り組みを考えてみたいと思います。

一回を二回に、そして通年に

 まず、第一にできれば回数を増やすこと。「農業体験」そのものの回数は増やせなくとも、何か関連して継続的な取り組みを仕組むことです。

 三鷹六中では、別にある学校農園を利用して同じ一年生で、サツマイモづくりを行いました。農家にお願いしてウネたてをしてもらった畑に、5月に苗を植え、夏は草取りをし、11月に芋掘りをし、さらには秋に落ち葉はきをして集めておいた落ち葉を利用して12月に焼き芋も行いました。

 また、夏休み中の社会科の宿題では「農業再訪」(7月の農業体験でうかがった農家を8月中に再訪し、畑の変化を観察し、できればお話をうかがってレポートをつくり提出させる)を課題とし、そのレポートや7月の農業体験の際のまとめなども利用しながら、社会科地理の授業で「東京(三鷹)の農業」という授業も行いました。もちろん他の地域の農業を考える授業でも「三鷹の畑と比べる」ことを心がけました。(長野・群馬の高原野菜なら葉菜類=キャベツ、レタス、白菜、など、宮崎・高知のハウス栽培なら果菜類=なす、きゅうり、トマトなど、が三鷹と違う時期に取れていること、などなど)

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サツマイモ掘り

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落ち葉はき

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焼き芋

食べる取り組みや講演会も

 それとは別に、農業体験を行った三鷹六中の1年生では、10月に「三鷹の野菜を食べよう、飯ごう炊さん」を企画し、飯ごう炊さん前日に地元のJA直売場で、なるべく三鷹産の野菜を入れたカレーライス、豚汁をつくろう、という校外学習も実施しました。

 この取り組みは農業体験ができなかった前任の調布市立第三中学校でも実施しました。事前に学校周辺の畑の観察と、直売場での地場野菜の買い物だけを入れた「飯ごう炊さん」でしたが、それだけでも「畑」を見る目は多少とも養える、と考えました。

 さらに、さまざまな形で「農業体験」に関連する講演会も企画しました。「農業体験」の事前学習としては、この冊子をつくる企画編集委員の座長でもある蕪木先生にお願いをして「今、なぜ農業体験が必要なのか」というお話を、3学期の「進路講話」でも、農業体験も受け入れてくださった地元の農家Nさんに「仕事としての農業」といったお話をしていただきました。(直接農業体験には関連しませんでしたが、学校栄養士さんによる「食育」の授業も行いました。その中でも今年度は、地域の農業と関連させて「地産地消」を取り上げる準備をしています。)

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飯ごう炊さん JAに買い出し

授業でも取り上げる

 また、こうした「農業体験」を深めるためには、関連した教科などで授業に関連させることが大切だと考えます。

 現任の三鷹六中では、7月に農業体験を行い、サツマイモをつくって芋掘り、焼き芋までやった1年生に対し、前述の「東京(三鷹)の農業」とは別に、社会科では、歴史の「江戸時代の武蔵野台地の新田開発」の部分で、雑木林の役割(ここでは落ち葉はき=くずはき、の意味が出てきます)飢饉の際にはたしたサツマイモの役割なども取り上げる予定です。

 この学年では、1年の3学期3月に学校農園にジャガイモの植え付けも行いましたが、その際には、南アメリカ・アンデス原産のジャガイモが、コロンブスのアメリカ到達以降ヨーロッパに伝わり、ヨーロッパの農業をかえ、日本にはオランダ経由でオランダ領のジャワ島ジャカルタから伝播し、だから「ジャガタライモ」…といった授業も行いました。

 また、ここでも少しハウツー的に書いておくと、「農業体験」や「学校農園」については、この冊子を発行している全国農村青少年教育振興会が出しているさまざまな冊子、資料以外に、農文協(農山漁村文化協会)が、雑誌「食農教育」をはじめ多くの雑誌や資料となる本を発行しています。学校農園関連ではつい最近「図解 おもしろ子ども菜園」(竹村久生)が参考になります。また、コモンズが出版している「教育農場の四季」(澤登早苗)なども、特に有機栽培を考えたりすると参考になります。(コモンズは、他にも有機農業関連の本をたくさん出版しています)

 それぞれの作物については、前述の農文協が「トマトの絵本」など、作物別に作り方から歴史までを絵本で紹介する「そだててあそぼう」シリーズをかなりの作物について出しており、また最近ポプラ社が隔月刊の雑誌として発行している「旬がまるごと」シリーズも作物別にさまざまな話題が提供されていて(「さつまいも」「じゃがいも」は既刊)参考になります。

 農作業そのものについても、最近家庭菜園関連の本がたくさん出ていますが、忙しい中での「農業体験」や「学校農園」となると、そのことをおりこんだ資料の方がいいかもしれません。

昨年一年間での手ごたえ

 こうして昨年度は赴任1年目とは言え、中学1年生(他にも中学2年生の選択社会科で学校農園約3aを使い、夏にミニトマト、トウモロコシ、エダマメ、ズッキーニ、スイカ2学期以降も大根、カブ、ホウレンソウ、ミズナ、シュンギクなどを栽培し、できた大根は2回にわたり学校給食に納入もしました)と農業体験をはじめその周辺のさまざまな活動を1年間続けてきました。

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ダイコンの収穫

 私自身は社会科ですし、地理で日本や世界の農業をそれなりに力を入れて教えていますし、そうした授業をつくるために日本各地の農家を訪ねたりもしています。また、学校の近くの田んぼや畑を見せたりする授業もやってはきましたが、三鷹六中での昨年度ほど農業体験や通年での取り組みを入れたことは初めてでした。

一年を通じて畑を見る

 そこで、昨年度の三鷹六中1年生で、これまでの学校、学年にはなかった子どもたちの、農への“まなざし”の変化の手ごたえを感じたことを少し書いてみたいと思います。

 その一つ目は、冬休み明けの出来事です。7月に農業体験をし、夏休みには「農家再訪」レポートの宿題を出したのですが、年末年始の冬休みは短期間であることもあり、レポート提出などの宿題は出しませんでした。ただ、1年生全員に配布した「冬休みの宿題一覧」では「できたら、また冬の畑も見てみよう。直売場で何を売っているかも見てみよう。(レポートなどは提出しなくてよい)」とだけ書きました。

 すると、冬休み明けに二人の女子が、またきちんと農家を訪ね、夏休み並みのレポートを作って提出してきたのです。そこで、その二人を呼んで「このレポートを採点して返してもいいけど……。君たちはこれでほぼ1年間三鷹の畑を見たことになるね。そこで、3月にあるケヤキ祭展示(教科の作品などの展示発表をする)に、7月の農業体験、夏休みのレポートと合わせて“畑の1年”を発表してみたら?」と薦めてみました。それでできあがったのがこの写真のもの。内容的には稚拙な域を出ませんでしたが、彼女たちの“まなざし”が1年を通じ畑に向いていたことが伝わってきました。

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壁新聞

農家の話に次々に質問が

 次に、2月に進路指導(キャリア教育)の導入として「進路講話」をやったときのことです。1年生ではまず「ものづくり」を仕事にしている方のお話をうと、1回目に小規模ながら人工衛星や医療の分野で世界的に通用する光学機器を製作している三鷹光器の創業者中村義一さんのお話しを聞きました。そして、その翌週、2回目は「仕事としての農業」のお話しを農業体験でも1グループがお世話になり、また学校農園も全面的にバックアップして下さっている地元の農家根岸稔さんのお話を聞きました。

 どちらの会でも最後に「質問」の時間をとりました。体育館で学年全員150人が集まっていますから、簡単には手は上がりません。第1回目の中村さんの時には質問は出ませんでした。ところが、根岸さんの会では、まず「一番作るのが難しい作物は何ですか」と質問が出ました。それに対し根岸さんは「うーん、やっぱりトマトですね。毎年同じように作ってもどうしてもなかなか思うように作れません」。次に「農業をやっていて地球温暖化を感じることはありますか」それに対しては「いい質問ですね。昔は冬越ししなかった虫が冬越しをしてしまったり、寒さにあたらないと実らないカリフラワーがなかなか実らず出荷時期がずれたりしています」と根岸さん。さらに「作物ができないこともありますか?」に対しては「去年の9〜10月の長雨でカリフラワーが根腐れをおこして大分やられました。台風の被害を受けることもあるし、5月の遅霜にやられることもあります」と、かみあったやりとりができました。

将来は農業も悪くない

 最後に取り上げるのがその時の「感想&お礼状」に書かれた子どもたちの文章です。まず女子のOさん「…私はまだ将来の夢は決まってないけど、根岸さんが農業のことについて話している姿を見ると、自分も好きな仕事をしたいと思いました。農業はとても大変でなかなかふつうの人じゃできない仕事かもしれないけど、根岸さんはそれを楽しんでやっていてカッコイイなと思いました」彼女の中で農家はカッコイイ仕事に見えてきています。次に男子のOくん「将来は普通の会社で働こうと思っていたのですが、農業も悪くないのかなと思いました。人間が生きていく上に必要な“食”を農家の方がやっていただいて、しかも畑などのオープンスペースが防災や、地球温暖化、市民への精神的な(癒しとしての)緑の役目もあると知り。三鷹に畑があって良かったと思います。ニワトリが2千羽(三鷹市内に養鶏・鶏卵農家がある)もいることにも驚きました。地産地消、カラフルな野菜、無農薬などの農業のありがたみがわかり。野菜を見るときに意識したり、第一次産業に就職するのもいいな、と思いました」

 これを書いたO君が卒業後、農業に就農するか、話がそんなに単純でないことはわかっています。ただ、この文章を書ける“農”へのまなざしが育っていれば、大人になっても通りかかりの田んぼや畑、そしてそこにある作物に目がいき、直売場で地場の野菜を求まるような、違った意味での「農業の応援団」になるのではないか、と感じています。

 農業体験などの取り組みは、子どもたちの畑や作物、農家、農業という仕事など“農に対するまなざし”を確実に変化させています。

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