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3 作物作りの良さと課題

地域の産業としての農業の役割と生きがいとしての農業

前埼玉県立熊谷農業高等学校校長 梅林寺 斉

1 地域の産業としての「農業」の意義

ア 安心安全な食料を供給する

 農業は、食料を安定的に供給する産業で、しかもその食料は安心安全であることを前提としています。ところが、近年、食料の自給率の低下と食に関する事件・事故によって、食料供給の面からも安心安全の面からも、期待に応えられない状況があります。

 これに対して、農業の振興や安心安全な食料供給などを目的として、国においてもさまざまな取り組みがなされています。地域においても、流通やマーケティングに工夫を凝らし消費者の求める農産物を生産者から消費者へ直接届けたり、生鮮食料品売場においても産地や生産者の顔写真や栽培歴などの表示がなされたりするようになりました。地場産の生産物を積極的に購入することを促す取り組みもなされています。農業が地域の産業として活性化することが食の質と量を守るものと期待されます。

イ 地域の産業を支え雇用の創出をする

 農業従事者の減少や高齢化が進む中でも力強く農業に取り組む人々によって農業の再生・発展へむけてのヒントとなる多くの成果が得られています。それらの事例は(社)全国農村青少年教育振興会「先生!農家に行ってみませんか? ―職業としての農業の再発見―」平成18年3月発行、「新しい農業にチャレンジする人たち」平成19年3月発行に紹介されていますがその中のいくつかを振り返ってみます。

● 新しい農業の動き

 まず、J Aや集落の自治組織などが中心となり農家が集団となって新しい地域農業システムをつくって立ち上げた農業生産法人があります。地域の農家が参加しているので、農地を集めて作業をしやすくしたり作業体系に合った体力や年齢の人を配置したりすることが可能となるので、生産性を高め組織的に経営管理や営業にもきちんと対応できるようになります。経営が確立することにより、新事業への進出と新たな雇用が見込め、さらに集落単位から一村一農場という展望も開けてきます。

 一農家でも、慣例にとらわれず栽培技術・経営技術を改善し新しい農業にとり組んでいる元気な農家もあります。このような農家が地域にいくつもあることによって地域の経済を担うとともに雇用を生み出すことができます。

● 生産から加工・販売までを取り込んだ農業

 第1次産業の枠をうち破り、生産から加工・販売までを取り込んだ新しい農業も生まれています。例えば、酪農では、乳牛を育て乳を搾り、牛乳・ヨーグルト・アイスクリームなどの加工・販売、そして農業体験・バーベキューなどのレクリエーションまで農の楽しみ全てを提供しています。

 以上、いずれの経営も人的にも立地条件も地域の特性の中で作り上げられた独特なものです。作り上げる過程でとり組んだ創意工夫や経験した困難・失敗はすべて異なっていますが、それをやり遂げ農業が産業として地域を支えているということは皆共通です。

2 地域と農業

ア 地域からの発信

 もともと農業は地域の気候・土地などの特有な自然環境に影響を受けその土地特有の財を生産するものです。一方、消費地では生活水準の向上とともに価値観が多様になり差別化された農産物が求められるようになります。この両者をマッチングさせ、村全員の知恵と地域の資源を最大限活用して地域農業を自立させ雇用と生き甲斐を生み出す事例が多数出現しています。

● ブランド農業

 地域に根ざした高付加価値を追求する「ブランド農業」として勢いを増している農産物がその一つです。高知のぽん酢しょうゆ、青森の津軽リンゴなどは海外進出を果たしました。育てた木の枝葉や花を加工して高級料亭用の「つまもの」として全国に季節に合わせてタイミング良く卸販売している地域もあります。これは、山村ならではの季節感あふれる商品を地域の人が知恵を絞って考案し、ブランド品として高付加価値を生んだものです。

 こういった事例に共通することは地域の人々の参加を主体とし周囲にある自然の資源を生かした、それぞれ特色のある村おこしや町おこしです。

イ 地域の中で‥‥地産地消

 もともと農産物は生産した地域で消費するというのが基本的な姿であり、生産者と消費者とが顔が見え話ができる関係にありました。そして、その地でとれた農産物をいろいろな食べ物にして伝統的な食文化が育まれてきました。食文化は、洋の東西を問わずどこにでも独自のものが存在しています。そしていま、スローフードの時代の流れが示唆するようにその土地で育てた食材を自分で調理していただく、これが求められるより豊かな生き方でもあります。食に対する関心が高まり「安心・安全」でおいしい新鮮な農産物を食べたいという消費者のニーズと生産者の販売の多様化とが相まって、地元で生産した農産物を地元に供給していこうという「地産地消」の取り組みが盛んになってきています。

● エネルギー資源の節約を考える

 地産地消の取り組みは、エネルギー資源の節約や食料自給率の向上という面からも役立っています。

 まず、エネルギー資源の節約について考えてみます。現在は生産者と消費者が離れている状況にあります。離れているということは、第一には地理的な距離が離れたことを指します。第二には栽培やトラック・飛行機などによる輸送、冷蔵・冷凍などの保管技術等が向上したことにより旬や収穫時期を意識することが少なくなり、いつでもどこでも好きな物が食べられ、時間的な距離も離れたということです。さらに第三として加工食品や惣菜などの中食、レストランなどの外食の利用が進み社会的距離である調理と食卓が離れたということです。旬が見えなくなり加工度が増すほどエネルギーを消費し二酸化炭素の排出量を増やしています。産地と消費地が近づくことはエネルギーの節約になります。

● 食料の自給率の低下

 食料の自給率の低下についていえば、食の外部化・サービス化が進んだことによって、均一で大量かつ安価な輸入農産物への需要が高まり、相対的に国産農産物の需要が減少したということです。

● 直売所の普及

 地産地消により国産食料の消費が拡大します。

 地産地消の流れは全国各地に広がり、直売所における売り上げでは一カ所あたり年間約6,000万円となっています。学校給食や中食・外食産業においても地場農産物を活用する動きがすすんでいます。全国の国道沿いにある「道の駅」をはじめ農産物の直売場は、生産者と消費者が出会う地産地消の拠点となっています。こういった農産物の生産・流通を通して生産者どうし、消費者どうし、あるいは生産者と消費者の交流が図られ共同体の形成が図られる意義もあります。

3 課題

ア 喫緊の課題

 近年、消費者の心をつかんだ新たな担い手が少なからず出現していますが、食への期待の高まりを追い風として生かしきれていません。高齢化した担い手に続く若手の育成が喫緊の課題となっています。

イ 生産者の経営力の向上

 私たちの食生活は大変豊かになってきています。しかしながら、国民全体の食料品支出のうち、国内農業に対する支出は1960年当時の39%から20%へと一貫して低下しています。それに対し、食品加工経費、流通経費、食料店サービスの費用は一貫して増加しています。すなわち消費者の食品に対する支払額のうち、農家の占める割合は5分の1であって、それに対して食品関連産業が4分の3を占めているのです。

 今後、持続可能な農業を構築するためには、こういった現実を見据え、高い「経営力」を有する農業を築くことが求められます。

ウ 国民的な共通理解

 農業には生産者が最大の経営努力をしてもどうにもならない限界があります。農業生産は植物の光合成能力と太陽エネルギーを受ける面積(耕作面積)を超えることはできないという限界です。すなわち、工業製品のように増産したり、広大な農地を持つオーストラリアなどとはまともに競争したりはできません。

 自国の食料は自国でまかなう必要性や環境、国土保全(=防災)などの面で農業が果たす多様な役割があることに対して消費者が理解を示し、限界を超えた分を負担してくれるかどうかです。生産者もまた、それを理解していただくに足る説明ができるかどうかです。

エ 若き担い手の育成のために

 農業はいわゆる「農家の跡取り」だけでなく非農家の子ども達も参入できるようになりました。食料の供給・環境の保全などという崇高な役割を持っているし、自らの創意工夫をもって経営することもできます。また、生き物を育てたり、収穫物を持ち寄って仲間と楽しい時間を過ごしたり、豊かな人間らしい生活もできるのです。自己実現の場として申し分のない職業です。

● 先生方におかれましては

 中学生をご指導していただいてる先生方におかれましては、たくましく生きる力を身につけていく中学生に、また農業の営みの大切さも深く理解させていただきたい、選択しうる職業のひとつとしてしっかりと認識させていただきたいのです。先生方には農業に携わる方々の篤い思いをご理解いただきたいと思います。

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