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4 中学校における体験学習の意味するところ

(1)中学生こそ農業体験・農業職場体験が必要

 農業を取り巻く状況についてみてきましたが、いま、時代は大きく変わろうとしています。人間の食に関わる農業について社会全体で真剣に考え、取り組まれはじめてきています。

 学校においても、農業体験学習に取り組む学校が増えてきましたが、しかし、その多くは小学校で8割近い学校で既に実施していますが、中学校での実施は3割程度であり、さまざまな施策もその多くは小学生を対象にしているものが大部分を占めています。その理由を聞くと、小学生の方が指導し易いと答える方が多く、そのほか小学校の方が入り易い、中学校は教科によって先生が違い、関心も薄いなどの答えが返ってきます。

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 しかし、いま、農業体験、農業の職場体験が本当に必要なのは大人への入り口にあり、自分の生き方を模索し始めている中学生にこそ必要であると言えます。小学生時代の体験学習と中学生時代の学習体験とでは意味するところが違います。仮に心に響く主観的体験は同じようであったとしても、その体験を自分と結び付けて考える主体的体験の深まりや広がりの度合いは違ってきます。施策者は体験学習は発達年齢の違いによって体験者の後に残るもの、培われるものがまったく違ってくることを銘記すべきです。

 中学生は手がかかるから大変だとか、自分で興味があればやれるからというような理由をつけたり、最初の試みで失敗は許されないから無難な小学生でというような及び腰ではなく、中学生の体験学習の意義を深く考えていく必要があります。確かに思春期にあってともすると心の不安定な時期にある中学生を指導するのは大変です。

 しかしながら、東京の北区神谷中学校を受け入れた、さいたま市にある『ファーム・インさぎ山』の萩原さとみさんや千葉県の中学生を受け入れた飯田市の『ふれあい農園おおた』の太田いく子さんのように、最初は悪ふざけをした生徒や、手に余る生徒で苦労なさったが、いまはそういう生徒の扱いにも慣れ、指導困難であった学校も農業体験を続ける中で落ち着いた学校となってきたと言われています。さらに、都会地の学校でありながら農業高校に進学する生徒や農業系大学を志す生徒も出てきているとのことで、これらのことからも中学生に対する農業体験学習の意義は大きいものであると考えます。

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(2)「中学校におけるキャリア教育(職業体験学習)の取り組みに関する調査」から

リンク:中学校におけるキャリア教育(職業体験学習)の取り組みに関する調査

問2 キャリア教育を実施している中学校の「農林漁業体験」の実施状況は

 「メニューとして含まれているし、実績もある」は24.5%で、「メニューとしてあるが希望に応じてない」は36.5%、「農林漁業は含まれてない」は35.4%となっており、実際に実施している学校は少ない状況になっています。

問5 「農林漁業体験学習」の重要性については

 83%の学校で重要と認識されています。

問6 「農林漁業」をキャリア教育に取り込む場合の問題点については

 「職業体験学習受け入れ先確保」が37.9%、「農林漁業者や関係団体の理解と協力」が21.6%、外部の指導者・アドバイザー確保が14.2%となっており、合わせて73.7%が農家をはじめとする外部者の協力が必要と感じています。そのほか「先生方の『農業』に関する知識・情報の不足」が10.2%、「カリキュラムの開発検討」が10.6%となっており、ここでも、研修会やカリキュラムや教材等の開発・支援を必要としています。

5 むすび

 

 これまでの調査によって、全国各地で実践されている中学校の農業体験学習、農業職場体験学習の状況について知ることが出来ました。今後さらに拡大・推進していくためには、さまざまな課題があることも明確になってきました。中学校での農業体験学習・農業職場体験学習を活発にしていくためには、なんと言いましても先生方の「農業」への関心と農の持つ教育的意義について深く理解していただくところにあります。

 具体的には

(1) 生徒や先生方のモチベーションをいかに高め、維持していくか
(2) 効果的な事前指導(生徒の事前学習・事前準備への指導)をいかに行っていくか
(3) 職場体験を行う上でのさまざまな問題点の解決法の検討
(4) 効果的な事後学習指導と評価のあり方
(5) 「農業」について深く知り自己のあり方と結びつけて考えたい生徒への進路指導のあり方

など、様々な段階においた課題が存在しています。

 いま、農業をめぐって世の中がどのように変化しているか、学校を取り巻く状況も変わってきていることについて見てきました。改めて“人を育てる”という観点から、学校教育を見直すとき、「農の持つ力」、農の教育力の活用が必須なものとなってきているのではないでしょうか。社会もそれに対してさまざまな支援・協力の体制が敷かれてくるようになってきました。まさにチャンスです。いろいろと忙しいことと思いますが、要は人を育てる上で大切なものは何か、具体的に何をチョイスするかです。

 そうは言っても、「『農』、『農』と言われたってそんなことを体験もしていないし、どう指導するかも考えたこともない。急に天から降ってきたような感じで何をなしてよいのかも分からない」。これが先生方の正直な気持ちではないでしょうか。

 この本を編集する私たちもほとんど教員です。農の専門家ばかりではありません。先生方の心情や学校の状況もよく承知した上で、あえて先生方に“農の持つ教育力”について目を向けていただきたい。そして、お一人でも多くの先生方に、中学生に「農」を体験する機会を作っていただきたい。そんな気持ちで編集してまいりました。

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〈資料紹介〉

 最後に、農業体験学習に取り組もうとお考えになっていらっしゃる先生方に大変工夫されたマニュアルをご紹介します。それは、実際に生徒の前に立ちどう指導するかのヒントを与えてくれるもので、必ずや実践に役立つものと思います。

 情報化の時代です、コンピュータを開けて、インターネットで「教育ファームねっと」と入れてみてください。アドレスは「http://edufarm.jp」です。ダウンロードも可能です。

 これはご紹介した、農林水産省の平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」で一年間かけて作られました『「教育ファーム」実践ファイル』です。実践で即役立つマニュアルとしてお薦めいたします。

 この『実践ファイル』は子どもたちに豊かな農林漁業体験・食体験学習を実践しようとする指導者へのアイデイア・ヒント集です。体験させたい場面ごとに1枚のカードとして、自由に引き出して使えるようになっています。カードは表と裏からなり、表面は指導者のはたらきかけ方や観察の方法、作業のさせかたなどで、裏面はさらに広げたい活動内容や「総合的な学習の時間」などへの発展テーマ、各地の事例などを紹介しています。合計64テーマ、表裏で128の内容となっています。

 さらに、このファイルに対応した生徒向けの『ワークシート』も作成されていて、たとえば、ダイズづくりの観察・調査シートのうちの「ダイズの花を観察しよう」では、ダイズの花の説明があり、株の花の位置を示す図と、花の解体図がイラストで載っています。下の方には「ここがポイント」としてマメ科の植物の解説があり、「メモ」欄では花の数を記録し、あとで実になった数を比較できるように工夫されています。この『ワークシート』は全部で235シートあり、コンパクトで指導の現場では非常に役立つと思います。

 いずれも易しい表現で書かれていますが、中学生でも十分利用できます。これ以外にも現在では先生方の実践を支援するマニュアルは様々にあり、インターネットで検索するなど参考にして、チャレンジしていただきたいと願っています。

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